企業変革の成果が経済成長率のアップに連動する局面へ

~15年ぶりに日本の実質経済成長率が米国に上回る可能性も~

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2006年06月20日

  • 三宅 一弘

経済の主役である企業が自信を取り戻し、中長期的な視点から「攻めの経営姿勢」を明確にしはじめている。端的に言えば、設備投資と雇用政策に関する積極姿勢である。企業の設備投資行動の代理として名目設備投資比率(=名目設備投資/名目GDP)をみると、企業が過剰設備の圧縮を進め、設備投資を抑制してきた90年代半ば以降の上限値である15%水準に漸く戻ってきた程度にすぎず、設備投資拡大の余地が大きい。更新投資を抑え続けてきた中小企業にも、更新投資が顕在化しはじめている他、10数年間抑制姿勢を堅持してきた電力、鉄道、流通、金融などの非製造業に関しても、設備投資に前向きな動きが広がってきている。薄型テレビや同関連部材、自動車関連の新規投資は引き続き活発であり、「設備投資ブーム」に発展する予兆すらある。加えて、企業が雇用政策を積極化しはじめたことで、雇用者数が増加基調を辿り、賃金環境が好転する中で、雇用・所得環境も改善基調を辿っている。中長期的な観点で消費拡大につながるルートが堅固になりつつある。

企業の構造改革・収益拡大の成果が、漸く個人消費の増加や設備投資の増大を通じて日本経済の成長率を高める構図へとはっきり変わってきている。米国経済の90年代が典型であったように企業主導の改革(ミクロ変革)の後には、ラグを伴うもののマクロの成長率改善(実質経済成長率のアップ)が訪れる。日本経済に関してもそのような局面が到来してきていると考えられる。06年は15年ぶりに日本が米国の実質経済成長率に並ぶ、うまくすれば上回る可能性が出てきている。米国は、金利引上げの効果があらわれ、06年の実質成長率が3%程度(3~3.5%)。日本も同程度を達成するとみられるが、上記のような構図が明確になれば、4%に近い実質成長率の可能性もあり得よう。ユーロエリアは2%程度(2~2.5%)といった見方である。

世界的な株安で、投資マネーはリスク回避姿勢を強め、現金(国債)に回帰する流れが強まった。ただし、やや長い目で見ると、投資環境はどこかで落ち着くだろう。米国のFFレートは既に5%にあり、利上げは最終局面に近づいているとみられるからである(インフレの中核になる単位労働コストの伸びは低位な伸びに大幅減速してきている)。投資環境が落ち着いてくる際、国際的な投資資金はどこに資金を振り向けるのであろうか。株式であれば、一気にエマージング市場まで資金を振り向ける(戻す)とは考えにくく、先進国市場が中心になろう。その際、経済が好調で、企業収益の高い増益率が期待できる良好なファンダメンタルズを備えるマーケットがターゲットになろう。日本の実質成長率が主要先進国(地域)で最も高くなるとの見方は一般的ではないが、そうした見方が今後広がる場合、国際的な投資マネーが再び日本株に回帰する可能性が高まるだろう。

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