コーポレートガバナンスと買収防衛策

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2006年06月09日

  • 藤島 裕三
買収防衛策を導入する企業が相次いでいる。主流となっているのは「事前警告型ライツプラン」と呼ばれるスキームである。一定以上の株式取得を狙う買収者に対し、猶予期間を設定して情報提供を求めるルールを提示、これに反して買付を強行したら新株引受権の発行など対抗措置で阻止する。ルールを遵守して十分な情報提供をすれば、買収者はTOB(公開買付)を開始し、買収の成否を資本市場に委ねられる。ただし会社側が買収者を悪質と判断すれば、対抗措置を発動できるとする例が多い。

このスキームでは2つの局面において、コーポレートガバナンスが問われる。1つは情報提供を不十分とする場合、もう1つは買収者を悪質とする場合である。いずれも会社側の判断で対抗措置を講じることになるが、現経営陣が保身を図る余地があると、優れた買収提案でも排除されてしまう。また、そのようなガバナンスの欠如したスキームだと、買収者が差し止めを求めて司法に訴えれば、認められる可能性が少なくない。法的安定性を欠いたのでは、そもそも買収防衛策として機能しないだろう。

ガバナンスの観点から適切な構造とするには、2種類のアプローチが考えられる。一方は決定プロセスにおいて、会社側の関与をできるだけ排除するもの。情報提供が十分かは買収側の弁護士が判断する、ルール遵守の場合は例外なくTOBに移行する、といった設計なら説明しやすい。もう一方は、買収の成否に利害が左右されない、独立性の高い社外者が主導するもの。取締役会の過半数を社外取締役が占めるのがベストだが、第三者機関に決定権を委譲する方法でも、一定の説得力は持たせられよう。

そもそもM&Aを友好的か敵対的かで論じること自体、ガバナンスの発想においてはナンセンスである。客観的に判断できるスキームが備わっていれば、友好的・敵対的のいずれに際しても、M&Aは企業価値の向上に貢献する。したがって前述したアプローチの内では、友好的M&Aも適切に評価できるという意味において、社外取締役を過半数にする方法論が最も優れている。敵対的買収者の出現など関係なく、常にベストのM&Aを選択することができる、価値創造型のガバナンス改革が望まれる。

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