中国の過剰設備問題への処方せん
2006年06月02日
こうした中、4月以降、国家発展改革委員会を中心とした国務院の関連部署が、問題改善のための政策を相次いで打ち出しており、5月18日現在では、石炭、アルミ、セメント、鉄合金、コークス、カーバイドの6業種について具体策が発表されている。共通するのは、1)生産能力の総量コントロールを前提に、製品の高付加価値化・エネルギー効率の向上・環境汚染低減をけん引する大企業を育成する一方で、2)小規模・低エネルギー効率・高汚染などの劣後設備・企業は淘汰する、3)新規参入のハードルを高くし、国家の産業基準・環境基準に見合わない投資は一切認めない、といった厳しい姿勢である。
注目されるのは、ある企業において新規プロジェクトが認可され、生産能力が増加する際に、同時に旧式の生産能力の廃棄を求めた点であろう。生産能力の増加が抑制される中、旧式設備から質の高い新しい設備への更新が行われれば、エネルギー効率が大きく改善する原動力となり得よう。
問題は政策の実効性である。残念ながら、政策で言及されているのは許認可権など旧態依然の行政指導であり、これでは、引き締めが強化されている時期には効果が出ても、いったんそれが緩和されれば、成長志向の高い地方政府主導で投資が再び急増するという、過去のパターンが繰り返される公算は大きい。
実効性を高めるには、制度的な仕組みを作り上げることが肝要となろう。例えば、地方幹部の昇進のための政績(政治的成績)の評価項目を変えるのはどうだろうか。現在の政績は、主に担当地域のGDP成長率と税収で構成されており、このため、地方政府は成長至上主義に走りやすく、どこもかしこも開発区作りにいそしむことにつながっている(※1)。この政績の評価項目を、現政権が志向する「都市と農村の発展の調和、地域の発展の調和、経済と社会の発展の調和、人と自然の調和ある発展、国内発展と対外開放の調和」に資するものに変えるのである。具体的には、第11次5ヵ年計画の主要目標(※2)のうち、政府主導で必ず実現しなければならない「拘束性」に分類された、1)単位GDPに必要なエネルギー使用量、2)単位工業生産額当たり水使用量、3)二酸化硫黄など主要汚染物質の排出量などの減少度合い、3)森林被覆率の向上、などを評価項目にするのである。上記1)~3)は、過剰設備問題の改善にも密接にかかわる重要な項目といえる。
(※1)農地を開発区に転用し、外資系企業が進出してくれば、投資・輸出・雇用増加が見込まれる。さらに、企業所得税の減免措置が終了すれば、将来的な税収増加にもつながると考えられる。
(※2)06年~10年の第11次5ヵ年計画では、主要目標を「拘束性」と「予期性」に分類した。「予期性」の指標には国内総生産などがあり、市場の役割が重視される。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
関連のレポート・コラム
最新のレポート・コラム
-
2021年01月15日
ポストコロナの人事制度を考える視点
~働く人の意識変化をどう捉えるか~
-
2021年01月14日
2020年11月機械受注
船電除く民需は市場予想に反し2ヶ月連続で増加、回復基調が強まる
-
2021年01月14日
アメリカ経済グラフポケット(2021年1月号)
2021年1月12日発表分までの主要経済指標
-
2021年01月13日
震災10年、被災地域から読み解くこれからの復興・防災・減災の在り方
『大和総研調査季報』 2021年新春号(Vol.41)掲載
-
2021年01月14日
共通点が多い「コロナ対策」と「脱炭素政策」
よく読まれているコラム
-
2020年10月19日
コロナの影響、企業はいつまで続くとみているのか
-
2015年03月02日
宝くじは「連番」と「バラ」どっちがお得?
考えれば考えるほど買いたくなる不思議
-
2020年10月29日
コロナ禍で関心が高まるベーシックインカム、導入の是非と可否
-
2018年10月09日
今年から、夫婦とも正社員でも配偶者特別控除の対象になるかも?
配偶者特別控除の変質
-
2006年12月14日
『さおだけ屋は、なぜ潰れないのか』で解決するものは?