地価の話
2006年05月10日
中央銀行の使命は、物価を安定させ持続的な経済成長を実現することにある。しかし、インフレ率が低位に制御されても資産価格が高騰した場合、バブルの芽を摘みつつ持続的な経済成長を促す最適な金融政策とはどうあるべきか。これは近年、不動産ブームを経験した欧米の中央銀行が共通して直面した問題の一つだろう。
すでに旧聞に属するが、今年1月1日時点の公示地価は、東京、大阪、名古屋の3大都市圏の商業地でいずれも反転した。これは15年ぶりのことである。特に東京都区部での情勢変化は著しい。05年の公示地価では、宅地と商業地を合わせて約60%の地点で地価が下落、上昇地点はわずか3%に過ぎなかったが、今年の公示地価では下落地点が13%に減少する一方、上昇地点は77%に上った。
ただし、地価の全国平均(全用途)はマイナス2.8%と、こちらは15年連続の下落であった。そのため地価上昇はまだ大都市を中心とする局地的な現象ということになる。そこで、統計に工夫を加え、地価動向の違った姿を示したのが日銀の試算である。通常、公示地価の変化は、各調査地点の変化率の単純平均として算出される。しかし、この方法では平米当りの地価がいくらであるかは関係ない。日銀の試算は、各調査地点の地価変化率をそれぞれ前年の地価をウエイトとして加重平均したものである(5月1日、日本銀行「経済物価情勢の展望」の図表33を参照)。それによると全国の地価は、前年比1.4%と、逆に15年ぶりの上昇になったという。加重平均では大都市における地価反転が全体動向を左右することになる。
単純平均と加重平均のどちらが資産デフレ脱却の方向感を表わしているかで言えば後者であるように思われる。過去も地価上昇は都心部から始まり周辺へと波及した。ただ、これにも異論があって、地方では公共投資減少、人口減少など様々な要因から地価下落圧力が強く、資産デフレ脱却が思うように進まないというものだ。
今後、日銀に求められるのは、デフレへの後戻りを防ぎつつ、資産インフレにも気を配る細心の金融政策である。その際、地価として何を見て判断するのか。資産価格が金融政策の暗黙の重要変数となっている以上、これは大きな関心事である。
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