つまずきを見せる米国証券業界のコールセンター営業戦略

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2006年04月26日

  • 新林 浩司
コールセンターという言葉にどのような印象を持たれるだろうか?資料請求や商品の注文・修理を依頼する際の窓口となるサポートセンターを頭に浮かべる方が多いだろう。また、企業側から勧誘の電話を掛けてくるタイプのコールセンターもある。

広大な国土を持つ米国では、対面サポートが困難な場合も多い。そのためコールセンターは証券業界でも積極的に活用され、資料請求や株価の問合せのような簡単な事務対応から本格的な投資相談にまで業務分野が広がった。コールセンター専用口座を設け、電話のみを介して注文取次や投資相談を提供するサービス形態は、支店にいる担当の証券外務員が応対する従来型証券サービスと、情報提供や相談などの付随サービスを省略する代わりに低い売買委託手数料を売りとする証券会社(ディスカウント・ブローカー)の間を埋める形態として始まったが、その歴史は比較的浅い。

コールセンター専用口座は、手数料の安さと手厚いサポートという顧客ニーズを同時に満たすために証券会社が考え抜いた経営努力の結晶といえる。しかしながら、アドバイス提供型コールセンターの成果を性急に求めた代償か、ここに来てつまずきを見せている。全米証券業協会は先ごろ米大手証券会社に対し、コールセンターの証券営業において一連の規則違反や監督不備があったことを理由に高額の罰金を課すことを発表した。

問題視されたのは、コールセンターの営業推進や監督体制に不備があり、「証券売買を推奨する場合には顧客利益を優先し、その資産状況や投資目的に照らして適合にする必要がある」という『適合性原則』が守られていなかった点とされている。コールセンター顧客の多くは、従来は支店で口座を持っていたものの預り資産残高が比較的少額だったため、コールセンターに口座移管されたということである。その結果、個人の投資経験や運用目的を把握する担当営業員の割り当てが無くなり、画一的な投資アドバイスを受けた結果、合理的な投資判断を下す余裕も無く取引が行われた事例もあったようだ。

結果的に投資家を欺く行為となった今回の規則違反に関連し、全米証券業協会からは営業時の倫理的行動を重視するよう証券各社に求めている。さらに投資家に向けては、「問合せ対応が主体の従来型コールセンターとは異なり、営業型のコールセンターは比較的新しく馴染みが薄いため、口座移管を受けた場合には十分注意するように」という趣旨のメッセージを発信した。企業間の競争と経営合理化の蔭で投資家が不利益を被りかねない行為は決して許されるものではない。業界全体の信頼回復のためにも、証券各社は今回の出来事を真摯に受け止めるべきであろう。

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