医療との連携が成功の鍵か?新制度下の介護ビジネス

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2006年04月24日

  • 浅野 信久
2006年4月から新介護保険制度がスタートした。今回の改正のポイントは、「介助・支援」という介護保険発足時の思想に、「介護状態への移行をできうる限り回避し、健やかな生活の継続」を目指す介護予防という新しいコンセプトが盛り込まれたことである。医療において、予防が重視されていることと同様な構図である。

2000年4月の介護保険制度の施行以後、介護サービス受給者は着実に伸び続けている。厚生労働省の2004年度分の介護保険事業状況報告によれば、2004年3月末現在の要介護認定者は前期比6.4%増の約409万人に達し、介護保険制度発足後5年間で1.6倍に増加している。2004年度の介護給付費は前期比9%増の約5兆5,200億円であった(2006年4月5日付け日本経済新聞)。また、2006年度の介護保険制度に係る総費用は政府予算ベース7.1兆円と見込まれている。国立社会保障・人口問題研究所の予測によれば、2000年には17%であった65才以上の高齢者人口の割合は、50年後の2050年には36%に達するという。さらに、少子化が深刻化した場合には39%と人口の約2.5人に1人が高齢者という「超高齢者社会」の到来が予見されている。将来の介護費用負担増を考えれば、介護予防は何としても成功させねばならない社会的命題であることは明らかである。

予防を考えるには、まず原因を探らなければならない。では要介護に至る原因とはいったい何だろうか。東京都老人総合研究所の調査結果によれば、脳血管疾患、関節疾患、パーキンソン病、転倒・骨折、脊髄損傷、認知症などが主因として掲げられている。現在の介護予防は、筋力やバランス感覚の維持につながるトレーニングが中心となっている。確かに、転倒・骨折予防や自立生活維持にはつながろう。

しかし、注目すべきは、65才から74才という比較的若い高齢者が要介護に至った原因の半数近くは脳血管疾患が占めていることである。脳血管疾患の代表的な病気は脳梗塞や脳内出血で、いわゆる高脂血、肥満、高血圧、高血糖という死の四重奏を予防しなければ発症は防げない。つまり、本質的な介護予防には、より早期な予防医学段階での活動が不可欠ということになる。この視点からは、医療から介護にいたる切れ目ないサービス提供体制の必要性が見えてくる。この点がビジネスとしての介護においても新たな成長への入り口となるかもしれない。介護予防時代に入り、在宅介護サービス企業の医療分野への進出、これとは反対に病院グループの介護サービス分野への進出がすでに活発化している。このことは、歓迎すべき変化である。さらに、超高齢化社会の到来は、これまで以上に後期高齢者の増大という新たな課題を発生させる。その対応として重要なのが認知症への施策強化である。この点でも、当然のこと、神経内科や精神科をはじめとする心身医療の一層強化が求められよう。

ところで、人口の高齢化は、すでに先進諸国に限った社会問題ではなくなっている。「介護」への備えは国際的に共通の課題である。先進諸国の中でも、世界最高水準の平均寿命を誇る日本だけに、ぜひとも「介護」においても、成功を収め、国際社会をリードしてもらいたい。いずれにしても、国民すべてが加齢に不安を覚えることなく健やかな生活を送れる社会が築かれることを願ってやまない。

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