説明責任・透明性・情報公開

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2006年04月11日

  • 田谷 禎三
1990年代半ばロンドンに駐在していた頃、時の外務大臣ダグラス・ハード氏に郊外の自宅に招待されたことがある。日本訪問を前にして、何人かの日本人や日本に詳しい英国人を呼んで日本の状況を知りたいということだった。当時、メージャー首相が連日のように野党、マスコミにたたかれ、近々辞任するのではないかといった雰囲気であった。しかし、ハード氏は、「首相が辞任するかもしれないと思っているでしょう。しかし、そうはならないでしょう」と言った後で、「日本では、料亭での有力政治家どうしの話し合いなどで、突然政権が代わったりします。英国では、あらゆることが衆人環視の下で行われるので、不安定に見えて、結構安定しているのです」といった趣旨のことを言われた。確かに、我が国は、小泉政権以前は、先進国の中では平均して政権の寿命が最も短い国だった。

最近は、そうした状況も変わってきたようにみえる。たとえば、最近の金融政策をめぐる論議をみていてその感を強くしている。政治家が金融政策についてさまざまなコメントを述べることはこれまでもあったが、大臣はおろか首相までもが、国会などの場でそれぞれの見解を述べるなどということは、一昔前では考えられなかった。表面的には、日銀に対する政治圧力が高まったかに見える。しかし、実態は多分逆で、これまで裏に隠れていたものの多くが表にでてきたものと考えることもできる。つまり、裏のコミュニケーション・ルートが細ってきたためだろう。それは、金融政策運営に関する日銀の自主性が、新日銀法によって強化されたことによるところもあるだろう。小泉首相の個人的資質によるところもあるだろう。しかし、より一般的には、政策決定あるいは行政上の意思決定に関するアカウンタビリティー(説明責任)の強調、そのための透明性の強化、そして、そのための情報公開の重視がある。これは、分野を問わず、世界的潮流でもある。

最近、外人投資家などには、「皆さんが知らないところで何か重要な話し合いなどが行われることなどはほとんどありません」と言っているが、これは重要な進歩だと思う。

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