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定量化のプロセスを俯瞰すること

2006年03月16日

井上 学

金融業界では他の業界に比べて、業務で発生するリスクのカテゴリー区分が進んでいる。例えば、信用リスクや市場リスク、オペレーショナルリスクが一般的だろう。そのようなカテゴリーの一つに、モデルリスクがある。前述のリスクほど一般的ではなく、一言で厳密に定義することは難しいが、「モデルを利用することに伴い損失が発生するリスク」といえる。モデルの仮定と現実の乖離や、入力パラメータの推定誤差などが、モデルリスクの源泉である。定量化のプロセスをチェックする重要性を示すキーワードといえるだろう。

先日、ブラック・ダーマン・トーイの金利モデルで有名なエマニュエル・ダーマンの自伝(※1)を読むことがあった。印象的だったのは、自伝の形式を取りながらも、著者が「どの金融モデルも現実の近似でしかない」というモデルの限界を意識することの重要性を、改めて読者へのメッセージとしているように感じられたことである。モデルリスクについては、全社的な管理体制とともに、現場でモデルを作成・利用している個人の姿勢が重要である。モデルの作成から結果の取得に至るプロセスを個人が冷静に俯瞰する重要性を、改めて本書で指摘された気がした。

構造計算書の偽装問題に代表されるように、いわゆる専門職に対する不信感は大きく広がっている。この問題は偽装という極端な例であり、モラルの問題として片付けることもできる。しかし、金融機関のみならず、計算結果だけではなくそのプロセス全体をチェックし、求められればそのチェック結果を顧客に説明できる体制が、定量化に関わる職業では、今後強く求められるだろう。モデルリスクという概念が、様々な業種で浸透し、金融業務にもそのフィードバックが起こることを期待したい。

(※1)「物理学者、ウォール街を往く。」(東洋経済新報社)

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