オフショアリングによる米国金融機関のBPO (ビジネス・プロセス・アウトソーシング)のゆくえ

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2006年03月13日

  • 古井 芳美
昨今米国金融機関では、インドや中国などの海外へ非コア業務を委託する、いわゆるオフショアリングによるBPO(Business ProcessOutsourcing、ビジネス・プロセス・アウトソーシング)の動きが活発化している。金額でみると、BPOを主に請け負うインドでは、過去4年間で総額33億ドル分の業務が委託されたという調査結果がある。世界12カ国の大手金融機関62社を対象にした調査でも、現在オフショアリングによるBPOを実施中もしくは今後行う計画である企業の割合は、2003年の26%から2005年には70%へと急拡大しており、世界的にみても金融業界で増加傾向にある。

そもそもBPOが進んだのは、金融業界内での競争が激化し、コールセンターやITのメンテナンス等の非コア事業のコスト削減に着手した90年代後半からである。金融機関ではBPOの前後で平均40%、多い場合は60%も費用を削減できた例が存在する(※1)。また、米国内の企業に委託するより人員調整が行いやすく、BPOの規模を柔軟に変更できるメリットもある。その背景として、労働力が豊富にあり、労務規定が緩やかであるため委託先も人員調整を行いやすいことなどが挙げられる。加えて、インド・中国など経済が発展している国を対象に、将来の進出に備えた社会基盤造りの一環としてBPOの推進が役立つとも指摘されている。

このような流れの中、高度なBPOを請け負うオフショアリングが増加している。現地委託先のITや会計に関する高い専門能力を生かし、より複雑な業務を委託する動きがある。具体的には、ITシステムの開発やミドル・フロントオフィス業務などがそれにあたる。すなわち、比較的単純作業を主体とする非コア部門のコスト削減が目的ではじめたが、その後BPOが拡張した結果コア部分の業務も委託しているわけである。実際、高度な分析と財務モデルの再編成などを委託している企業もある。

ただし、オフショアリングに対するBPOに関しては幾つかの問題点も指摘されている。一つ目として短期的にコスト削減はできるものの、その後は質が下がりコストメリットが想像したほど良くない傾向がある。理由としては、委託側でBPOに注力しなくなり、優秀な担当者による管理が行われなくなってきていることが挙げられる。また、BPO利用が必ずしも費用削減につながらなくなってきている。アウトソーシングの増加に伴い現地の優秀な人材が不足し始めており、給与水準が急上昇しているためである。実際にBPOの主流であるインドでは、年間25~30%程度賃金が増加しているため、将来的には米国とあまり相違がなくなり、大幅なメリットが期待できなくなるという可能性が高い。

とはいうものの、長期的に考えれば市場としての将来を見据えた社会基盤造りなどのメリットは大きく、今後もしばらく米国金融機関によるオフショアリングの動きは続くと考える。

参考資料:Financial Services Companies Could Triple Cost Savings fromOffshore OperationsDeloitte Touche Tohmatsu)

(※1)例えば、インドでシステム開発などを委託する場合、時給が米国内と比べて、4分の1以下になると言われている。

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