ユーロ圏の拡大とそのインパクト
2006年03月06日
どちらの動きも中・東欧諸国がさらに一層「欧州」に組み込まれることを意味する。ただ、該当する諸国にとってはエポック・メーキングな出来事だが、既存の「欧州」に与えるインパクトは小さい。EU新規加盟2カ国は現在のEU25カ国に比べれば、人口で6%、名目GDPで0.8%に過ぎない。ユーロ圏の拡大はそれ以上にインパクトが小さい。新規にユーロを導入する諸国は各国とも人口100~300万人程度で、3カ国を合わせた名目GDPも現在のユーロ圏12カ国の0.7%でしかない。
しかし、ユーロ圏の拡大がEUの今後に与える影響を過小評価してはならないだろう。というのは、今回の2ないし3カ国のユーロ導入は今後に控える他のEU新規加盟国や潜在的なEU加盟国にとって絶好なサンプルとなるからだ。今回の2ないし3カ国は、前述のように、人口や経済規模が小さく、計画経済から市場経済への移行に伴う各種の構造改革も比較的スムーズに行なわれた「優等生」である。
ただ、購買力ベースでの一人当りGDPはスロベニアこそユーロ圏内最低のポルトガルをやや上回るが、リトアニアとエストニアではそれを3割以上下回る。つまり、今まで以上に経済格差がある諸国がユーロ圏に組み込まれることになる。経済構造改革の進展に呻吟する中・東欧諸国の多くも同様な水準にある。それら諸国にとって、今回のユーロ圏の拡大は、ユーロ圏への包摂が自国経済に与えるインパクトを推し量る格好の事例となろう。結局、これら諸国はローコストの労働力などの資源を西欧諸国に供給するに過ぎないのか、ユーロ導入による真の経済的メリットを享受できるのか、多くの中・東欧諸国は新規ユーロ圏参入諸国の動向を注視している。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
関連のレポート・コラム
最新のレポート・コラム
-
2021年01月15日
ポストコロナの人事制度を考える視点
~働く人の意識変化をどう捉えるか~
-
2021年01月14日
2020年11月機械受注
船電除く民需は市場予想に反し2ヶ月連続で増加、回復基調が強まる
-
2021年01月14日
アメリカ経済グラフポケット(2021年1月号)
2021年1月12日発表分までの主要経済指標
-
2021年01月13日
震災10年、被災地域から読み解くこれからの復興・防災・減災の在り方
『大和総研調査季報』 2021年新春号(Vol.41)掲載
-
2021年01月14日
共通点が多い「コロナ対策」と「脱炭素政策」
よく読まれているコラム
-
2020年10月19日
コロナの影響、企業はいつまで続くとみているのか
-
2015年03月02日
宝くじは「連番」と「バラ」どっちがお得?
考えれば考えるほど買いたくなる不思議
-
2020年10月29日
コロナ禍で関心が高まるベーシックインカム、導入の是非と可否
-
2018年10月09日
今年から、夫婦とも正社員でも配偶者特別控除の対象になるかも?
配偶者特別控除の変質
-
2006年12月14日
『さおだけ屋は、なぜ潰れないのか』で解決するものは?