「後藤田五訓」に学ぶ年金資産管理
2006年02月16日
特に当年度は、過去最高の利回りを記録した2003年度(17%)を凌ぐ勢いであり、長年運用低迷で代行返上や給付引き下げなど、その業務運営に腐心した企業年金関係者を安堵させている。また同関係者を招いての運用機関が主催するセミナーは、一様に盛況であり、会場では関係者同士が談笑する姿が見受けられる。
先の関係者が株高により喜々とする気持ちは理解できるが、1月半ばに起きたライブドア問題により、一時的な株価の急落に不安を感じた人は多いものと思われる。この様に市場は常に不安定であり、先行きを見通すことは困難である。こうした状況下であるが故に、今一度、長期運用者であることを踏まえた年金資産管理の基本精神に立ち返る必要があるものと考え、敢えて述べておきたい。
長期運用の基本を再認識する上で、表題に掲げた故後藤田正晴元副総理の五訓が極めて参考になるものと考える。この五訓は昭和61年に内閣安全保障室を始めとした内閣五室制度発足式典の際、当時の官房長官である後藤田氏から発せられ、後に当時の内閣安全保障室長佐々淳之氏が名づけたものである(詳しくは同氏著書『わが上司後藤田正晴』)。この五訓の具体的内容は、(1)省益を忘れ、国益を想え(2)悪い、本当の事実を報告せよ(3)勇気を以って意見具申せよ(4)自分の仕事でないというなかれ(5)決定が下ったら従い、命令は実行せよの文字通り5項目から成る、所謂「危機管理」に対応するための要諦である。
企業年金関係者(管理者)の立場から考えれば、個々の企業の利益より年金加入者・受給者に貢献することを第一義とし、自ら管理する企業年金の運用や財政状況を市場環境に係らず、正確に前記の加入者などや母体企業に情報開示すべきものと解される。そして厚生労働省などの監督官庁や母体企業に対しても運営上の問題点を積極的に具申する一方で、監督機関や母体企業の他部署任せにするといった事がないように戒めている。最後の点は、運用や制度運営方針が決定された場合は、当然の事ながらその方針に沿って着実に業務を遂行することを意味するものと考える。
特に最後の点は、卑近な例を挙げれば、国内株式の急伸により、足元、過半の企業年金は基本資産配分からの乖離を修正するといった行動が求められている。しかしながら、先行き上昇予測からその実施に躊躇している先が意外に多い。決定した方針は繰り返しとなるが着実に実行されるべきであり、仮にムードに流され実施を見送り、その後、株式が急落した場合は受託者責任を一層厳しく追及されることになりかねない。
これまで「後藤田五訓」を企業年金管理者に対して述べてみたが、当然あらゆる職業人に普遍的なものであり、我々年金コンサルタントとしても、顧客である企業年金の負託に応えるべく、この五訓を胸に刻む必要があることは言うまでも無い。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
関連のレポート・コラム
最新のレポート・コラム
-
2021年01月20日
生産・輸出は改善、消費で地域差も~今後の感染状況と政策対応が焦点に
2021年1月 大和地域AI(地域愛)インデックス
-
2021年01月20日
米国経済見通し 新政権誕生後の米国経済
バイデン新政権が追加支援案を発表、まずはお手並み拝見
-
2021年01月20日
コロナ禍の中期経営計画
高まる不確実性に向き合うための戦略と目標のあり方
-
2021年01月19日
コロナ禍での中小企業の資金繰り動向
資金繰りとバランスシートの頑健性を点検
-
2021年01月20日
新たな科学技術・イノベーション政策への期待
よく読まれているコラム
-
2020年10月19日
コロナの影響、企業はいつまで続くとみているのか
-
2015年03月02日
宝くじは「連番」と「バラ」どっちがお得?
考えれば考えるほど買いたくなる不思議
-
2020年10月29日
コロナ禍で関心が高まるベーシックインカム、導入の是非と可否
-
2006年12月14日
『さおだけ屋は、なぜ潰れないのか』で解決するものは?
-
2018年10月09日
今年から、夫婦とも正社員でも配偶者特別控除の対象になるかも?
配偶者特別控除の変質