DVDに録画した我が子の笑顔は「永久に不滅」か?

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2006年01月27日

  • 小川 創生
子供の誕生をきっかけにデジタルビデオカメラを購入する家庭は多い。テープに映像を記録する機種が今のところ主流であるものの、最近ではDVDを搭載する機種が人気を集めている。ハードディスクを搭載する機種でも、撮った映像を大切だと思うならDVDにダビングするだろう。取扱説明書にも「DVDなどにコピーして保存することをお勧めします」と書かれている。

しかし、せっかく撮った我が子の笑顔が、成人式を迎える頃には再生不能となってしまう可能性がある。DVDやCDなどの光ディスクには、寿命が存在するのである。

光ディスクは、「半永久的」ではない。むろん「永久に不滅」でもない。銀色に反射するアルミニウム層は、時が経てば酸化や腐食が進行する。一度だけ書き込み可能なDVD-RやCD-Rにおいて記録を担う有機色素層は、紫外線や高温多湿などにより化学反応を起こす。表面を保護するプラスチック層は、接着剤の劣化ではがれやすくなる。こうしたことが寿命を制限する要因となる。

DVD-RやCD-Rの場合、通常の品質と使用環境でおおよそ10年~30年の寿命とされている。これについては諸説あり、100年以上の耐久性をうたう製品の宣伝もあれば、直射日光にさらすと数時間で再生不能になったとするマニアの主張もある。つまるところ、光ディスクの寿命は品質と使用環境によって大きく変化するので、個々のディスクの寿命は時間が経ってみないと分からない。ただ、記録を確実に長期保存するためには何らかの手立てが必須であることは、誰もが認めるところとなっている。

長期保存が法律で義務付けられている文書の電子化においては、記録媒体の寿命の問題が特に重要視されている。米国の国立標準技術研究所 (NIST)では、光ディスクを含む各種の記録媒体の寿命を研究しており、標準的な品質試験方法を定めた上で寿命の表示を義務付けることを検討している。日本工業規格(JIS)においては、「電子化文書の長期保存方法」と題する規格原案が2005年8月に提出され、現在審議中である。その規格原案では、CDやDVDなどの記録媒体を3年に1度点検し、一定の劣化が検出された場合は即座に新しい媒体にデータを移行することとしている。

さて、こうした光ディスクの寿命の問題は、デジタル機器に詳しい関係者や利用者の間では既知であり、このコラムであらためて取り上げるのには多少のためらいを覚えたことを申し上げておく。しかし、「聞いてないよ」と思った方々もかなり多いはずで、それには無理からぬ事情がある。

音楽CDが登場した1980年代当時、光ディスクの音質は「半永久的」に劣化しないとされ、それがCDの爆発的普及の一因となった。しかしその音楽CD(CD-ROM)にさえ、寿命が存在する。書き込み可能なCD-RやCD-RWよりは長持ちするものの、通常の品質と使用環境でおおよそ30年~100年の寿命とされている。すでに初期の音楽CDに異変が生じているとする一部利用者の報告もある。寿命に関する誤った認識の根源は、1980年代のメーカー側の宣伝に見出すことができるのである。

光ディスクの寿命について、メーカーには何らかの説明責任があるはずである。「半永久的」という表現の使用を控えるだけでは、不十分ではないだろうか。

ここで、利用者が注意すべき事項を一通りまとめておく。光ディスクの使用や保管においては、ディスクの記録面に手を触れない、汚れや傷をつけない、重ね置きしない、購入時のケースに入れて保管する、直射日光や高温多湿を避ける、貴重な映像を録画する場合は新品で高品質のディスクを使う、といった注意が必要である。ここまではメーカーの取扱説明書にも記されている。

さらに、前述したJISの規格原案を、個人で録画した映像にそのまま適用するなら、3年ごとにディスクの点検が必要だということになる。それは過剰だとしても、複数の専門家は、貴重な映像の保管においては10年以内をめどに新しい記録媒体に移行することを勧めている。我が子の笑顔を撮った映像を貴重だと思うなら、成人式の頃には少なくとも2回の移行を済ませていることになる。「永久に不滅」であるためには、やはり、それなりの刷新が必要だということである。

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