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交通機関のストライキに見るNYの危機管理対応

2006年01月13日

新林 浩司

クリスマスを目前に控え、観光と買い物の人々で町中が賑わった昨年12月、ニューヨーク市では25年ぶりに地下鉄とバスの全面ストライキが実行された。マンハッタン内外で地下鉄やバスを利用する約700万人が3日間に渡る影響を受け、2時間ほどの道のりを徒歩通勤した人などもいた。

地下鉄が東京ほどには混まない反面、マンハッタンは日頃から車の渋滞がひどい。地下鉄、バスに乗れないため、車の利用者が増えて路上交通網が機能しなくなる懸念も予想された。そのためNY市では危機管理局、警察署、交通局、消防署と合同でストに備えたコンティンジェンシー・プラン(危機管理計画)を発表し、事前周知に努めたのである。その内容は、パーク・アンド・ライド(郊外の駅まで自家用車で行き、そこで鉄道に乗り換える)を含めた代替交通機関の案内をはじめ、乗車4名未満の自動車のマンハッタン(96丁目以南)進入禁止の措置、緊急車両用に確保する道路の封鎖、ゾーン制タクシー料金の一時的導入および同一方向に向かう乗客の混乗推奨など、安全確保に重点を置きながら、ストを引き金に全面的な交通麻痺に陥らないよう配慮されたものであった。

NY市が危機管理計画を発表したのに合わせ、マンハッタンに集中する米国の金融決済機能を担っている証券金融業界でも周到なスト対策が練られた。マンハッタン郊外からの通勤者が多く到着するミッドタウンの鉄道駅からダウンタウンにあるウォール街まではおよそ6キロメートルある。駅前では大手金融機関の担当者が社名の入ったプラカードを持ち、チャーターしたシャトルバスに社員を誘導する姿が見られた。またマンハッタンとニュージャージーを結ぶPATHトレインという鉄道はNY市の危機管理計画を支援するためにスト時の運行ダイヤを変更し、普段は走らないミッドタウンとワールド・トレード・センター(建物は無くなったが駅名は今も残る)間を直通運転させ、ウォール街に向かう多くの通勤客を運ぶなど、行政、公共サービス、企業が協力し合いながら混乱回避とビジネス機能の維持継続に努めた。

2001年9月の同時多発テロ以来、ニューヨークの行政は防災に力を入れている。NY市の危機管理局(OEM: Office ofEmergency Management)では、多言語環境で暮らす地域住民のため、8カ国に翻訳された危機対応マニュアル「Ready NewYork」を用意している。また、ハリケーン到来時の要避難区域のレベル分け(私が勤務する近辺は最も危険の高いゾーンA指定となっている)や、中小企業向けに44ページに渡る危機対応マニュアルを配布するなど、地域経済活動の危機管理を支援している。

もちろん日本でも同様の取り組みはされており、例えば東京都総務局総合防災部では地震発生時の建物倒壊危険度をはじめとする地域危険度一覧表や、事業所が準備すべき事項などの防災情報の提供を積極的に行っている。しかし、ニューヨークのスト騒ぎが今回示した危機対応は縦割り行政や官民の連携不足などという言葉とは無縁の、柔軟かつ危なげないものとして映った。果たして日本においても同様の非常時対応が実際にできるのであろうか。

平常時ですら大変な通勤ラッシュとなる日本の首都圏では、交通網の寸断は深刻な事態を招きかねない。日頃から多方面の相互連携を密にし、危機対策の一層の整備を心がける必要があるだろう。

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