宗教法人のガバナンス・情報開示

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2005年12月26日

  • 内藤 武史
去る7月13日、民主党NPO・公益法人改革プロジェクトチームと民主党税制調査会は『公益法人制度改革案(2005年中間報告)』を公表した。同改革案の骨子は、原則非課税、設立は準則主義(または要件をはっきりさせた上で認証主義)、残余財産分配不可の3点である。民主党の改革案を現状で想定される政府の改革案と比較すると、制度の枠組みについては、ともに二階建て方式が想定されており、設立についても、一階部分が準則主義、二階部分が第三者機関による判断という点で違いはない。

一方、法人税については両者が大きく異なるとみられる。民主党案では、一階部分、二階部分ともに原則非課税であるのに対して、政府案では、一階部分が原則課税、二階部分が税制優遇するという形が想定されている。さらに、二階部分について、民主党案では、従来の税制優遇に加え、本来事業ならば収益事業であっても課税除外とするとしている。これに対して、政府案では、収益事業(33種の事業)への課税や現行の税制優遇についても見直すことを検討課題としている。但し、二階部分の適正運営確保の手段として、ガバナンスの整備と情報開示の充実を求めている点は共通している。

情報開示の問題といえば、宗教界においては、平成15年11月に鳥取県が県情報公開条例に基づき届出書類を公開したことが記憶に新しい。それでは、宗教法人のガバナンスや情報開示の問題はどのように考えるべきか。石村耕治・白鴎大学教授は、宗教法人法によって、ガバナンスや情報開示、説明責任に関する規定も整備されているとしている。そして、宗教法人法に規定されている部分が守られているかどうかが公益性を担保する基本になるという。但し、宗教法人には宗教的側面と世俗的側面があり、宗教法人法は専ら宗教法人の世俗的側面だけを取り扱う法律であり、宗教的側面については、認証庁であっても一切介入してはならないとしている。

一方、田中治・大阪府立大学教授は、法人擬制説の立場から理論を展開する。法人税は法人の段階で個人が払うべき税金を前取りする制度であり、最終的に個人の私的利益となる儲けを得ようとする活動があることを前提としているが、公益法人は最終的に個人に行き着く儲けを上げるために活動をするわけではないので、そもそも法人課税の前提を欠いている。公益法人の本来の活動に法人税がかからないのは、特典でも何でもなく、課税の前提がないから税金をかけないというごく当然の結果にすぎない。以上の論点を前提とすれば、宗教法人に対して、公益性の判断要件としてガバナンスの充実や情報開示を求めることは論理的に矛盾しており、政教分離の原則に反することになるというのが大筋の考え方である。

前述のように、公益法人制度改革に関する民主党案は原則非課税である一方、現状で想定される政府案は原則課税と大きく異なっていた。だが、公益性判断の要件として、ガバナンスの整備と情報開示の充実を求めている点では両者は完全に一致している。このことから、自民党であれ、民主党であれ、ガバナンスや情報開示を重視するスタンスには何ら変わりはないことが明らかとなった。宗教界としては、今後の戦略としてこの点を十分考慮していく必要があろう。

参考文献等:石村耕治・白鴎大学教授『公益法人制度改革と宗教法人への影響と課題~宗教法人も警戒を要する「営利法人並み課税」への転換~』(財団法人全日本仏教会)
田中治・大阪府立大学教授『公益制度の改革について-公益法人制度改革の問題点と宗教法人との関係-』(財団法人全日本仏教会)

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