プレゼン資料の文章量が多い訳は...

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2005年12月09日

  • 本谷 知彦
先日、シリコンバレーの日系企業に勤務する、日本語を流暢に操る米国人の義弟(実妹が国際結婚)が出張で来日した。夜、久しぶりに二人で飲み食いし、ほろ酔い気分になりかけたある瞬間、ふと彼は私にこんな問い掛けをした。「どうして日本(人)のプレゼン資料には、文章がごちゃごちゃとたくさん書いてあるの? わかりづらいよ。。。」なるほど、言われてみれば、全てがそうとは思わないが、何となく当たっている気がする。

一般論かもしれないが、日本人、あるいは日本企業のプレゼン資料は、あらゆることをきちんと漏れなく盛り込んでおきたい思いが強いのか、比較的文章量やページ数が多いように思われる。一方、米国企業などのプレゼン資料はこれとは対照的で、“Reduce cost”、“Increase efficiency”など、要点を簡潔に表し、図表を多用した比較的コンパクトなものが多い印象を受ける。プレゼンのねらい、話す相手、シチュエーションが各々異なるため、全てを同一の尺度で比較することは難しい。又、日本人、あるいは日系企業のプレゼン資料も、全てがそうとは限らない。ただ、全体傾向として両者にはこのような相違感がないだろうか。先の質問を受け、瞬間的に私は彼にこう答えた。「それって、営業のやり方と意思決定スタイルが日米で違うのかもね。。。」 だがしばらく考え込んだ後、あらためて心の中でこうつぶやいた。「何だかビジネス手法の核心をつくような、奥深い問い掛けかもしれない」と。

彼との問答はそこまでだったのだが、あらためてこんな仮説を立ててみた。

日本の営業シーンでは、まず相手担当者の感触を確かめるべく、ボトムアップでアプローチするケースが多い。
内容がアトラクティブであれば、担当者が社内で他部門に「横展開」又は上司に対して「縦展開」を行う。つまり、相手の社内で資料が一人歩きするわけだ。一人歩きするプレゼン資料のみで内容を正しく理解してもらうためには、論理立てて結論へと展開していくなど、自ずと文章量も多くなることは想像つく。
かつ、きめ細かく論理立てて文章を多く盛り込んでおけば、あらゆる質問に落ち着いて即答可能である。本番でもシナリオにのっとってしゃべれば、失敗する可能性も低い。
かたや、米国流のプレゼンはトップやキーパーソン、又はそれに順ずる相手に直球勝負。プレゼン資料は補足的であり、会話とバンドルである。要点が明確になった話は、相手も理解しやすく飲み込みやすい。
さらにその相手が社内のキーパーソンや意思決定者へ話しを伝達する際、決してプレゼン資料を一人歩きさせず、“その人自身の言葉”としてポイントを伝えているのではないか。

このように書くと、営業手法におけるトップダウン/ボトムアップのアプローチ議論のように思われるかもしれない。トップダウンもボトムアップも双方利点・欠点があり、状況によって組み合わせるなど上手い方法が求められるものである。だが、要点はそれだけではない。そもそもプレゼン自体の本質を踏まえておく必要があるのではないだろうか。その本質とは、“プレゼン資料の文中の言葉で相手を理解させる”のではなく、“プレゼンテーションという場面を通じ、相手の立場にたって、相手自身の言葉で内容を解釈できるよう理解を促す”ことである。無論、営業手法という全体観から捉えた場合、ボタンを押し間違えないよう適切なキーパーソンを探り当てて、プレゼンの矢を射ることが前提ではあるが。

自身、仕事柄プレゼンを行う機会が非常に多いのだが、経験上、文章量を多く盛り込み、熟考したシナリオのもと用意周到で臨んだ時は、何となく淡々と時が過ぎ白熱しなかったケースが多いように思える。一方、準備時間がなく思い切って要点を絞り込んで資料を作成し、“あとはしゃべり勝負!”と臨んだ場合のほうが、相手の様子にあわせて臨機応変に話しを適応させながら、かえって生きた言葉が飛びだすなど、迫力のある効果的なプレゼンができたケースを多く記憶している。たとえボリュームが多くても、又はシナリオが予め整理されているとしても、相手がそれを想定どおりに理解できるとは限らない。要は“相手の立場にたって、状況に応じて時には組み立てをアジャストし、相手が自分の言葉で理解できるようプレゼンを試みる。”私はプレゼンテーション技術を教える専門家ではないが、冒頭の問い掛けを通じ、あらためてこの点を認識した次第である。

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