2005年11月30日
2001年~2005年の第10次5カ年計画における主要目標の達成度合い(途中経過)をみると、国内総生産など量的拡大目標は計画を超過達成した項目が多い。一方、計画に対して、明らかな未達、あるいは辛うじて達成できるかどうか、という項目には、(1)GDPに占める第一次、第二次、第三次産業の構成比と就業者数の構成比、(2)高校進学率、(3)都市部緑化率、(4)R&D投資のGDP比率、(5)鉄道延長距離、がある。課題は、産業構造の高度化の遅れと環境問題である。
産業構造の高度化について、第一の問題は、中国の経済成長が第二次産業(製造業)に過度に依存していることである。投資の急増が製造業の成長を牽引しているが、それは同時に投資効率の低下や製品の供給過剰(設備過剰)問題を悪化させている。
第二の問題は、第三次産業の発展の遅れである。第三次産業の中でウエイトが相対的に低下しているのは、(1)交通・輸送、倉庫、(2)卸売・小売、貿易、飲食、(3)金融・保険であり、これらの共通点として、2001年12月11日のWTO加盟以前は、国家による参入規制が厳しく、さらには過去の計画経済下でのサービス産業軽視という風潮を背景に、発展が阻害されてきたことがあげられる。この点で、WTO加盟に伴うサービス産業の対外開放の効果が期待されたわけだが、今のところその効果は限定的である。第三次産業の活性化には、今後の規制緩和・自由化のさらなる進展と、それを好機と捉えた外資の流入が活発化するような環境整備が求められよう。
環境関連では、汚染物質の排出量を2000年比で10%減とする目標が掲げられたが、工業排気ガス排出量や二酸化硫黄排出量などは、むしろ大きく増加しており、環境問題は悪化している。中国は、世界最大の二酸化硫黄排出国、世界第2位の二酸化炭素排出国であり、同国の環境問題は今や世界的なリスク要因として捉えられている。
GDP1単位を産出するのに、中国は世界平均の2.9倍、日本の8.4倍ものエネルギーを必要とする。エネルギー効率が低水準にとどまっているのは、(1)産業構造として、エネルギー使用量の多い製造業(特に重化学工業)のウエイトが高い一方、消費量の少ないサービス業のウエイトが低いこと、(2)さらに、製造業では、新規投資の際に、旧式設備の廃棄が同時に行われないために、効率改善のスピード・アップが進まないこと、などに要因が求められる。前者については、規制緩和や自由化の進展によるサービス産業の活性化が、後者では、新規投資の質的向上とともに、環境・産業基準に見合わない旧式設備の淘汰が大々的に実施される必要がある。こうした方針が着実に実行に移されるには、財政、税制、価格などのインセンティブ付与によって、投資を方向付けて、政策の実現性を高めることも重要な鍵となろう。
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経済調査部
経済調査部長 齋藤 尚登
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