規律のある企業経営と収益拡大
2005年11月29日
筆者は、80年代末までの日本企業と現状との差異を、株主・ガバナンス構造の激変や経営者の意識変革などを背景に、日本企業の間で「継続的な生産性や収益力の改善、企業価値の改善努力」が経営にビルトインされたところにあるとみている。80年代後半のバブル期に象徴される「規律のなかった」日本企業の経営が大きく変わり、「規律のある」企業経営と収益拡大が進んでいる点が大きな相違点である。日本企業(東証1部・除く赤字会社)の今期予想ROEは漸く10%程度に高まり、80年代後半のバブル時に接近してきた。10年前は、ROE10%が目標値であったが、今後は10%が最低限不可欠な時代に入っていく。欧米企業のROEが概ね15~18%位なので、日本企業が改善したといっても格差は大きい。ただし、日本企業の収益力の改善はまだまだ継続するだろう。
日本企業の経営戦略は、90年代半ば以降、売上が増えない中でリストラ・コスト削減などを通じてマージンの改善を図る「デフレ適応戦略」をとってきたが、ここ1~2年、資本効率を高めながら売上高を増やす「ポスト・デフレの成長戦略」へ明確にシフトしはじめている。そのためには、売上を伸ばせる有望分野へ投資し、逆に不稼働資産の圧縮を進めるなど、事業再編が不可欠になろう。
時間を買うという意味からもM&A戦略が非常に重要になってくる。加えて、買収防止の観点からも収益力の改善は不可欠になる。ROEの大幅な改善が図られてきたが、これまでのリストラ・コスト削減を通じたマージンの改善から、総資本回転率の改善がより一層重要となる局面へと移行していくとみられる。
将来5年くらいを考えると、日本企業のROEは15%くらいが目標値になってくるとの見方をしている。そのためには税引マージン5%、総資本回転率1倍、レバレッジ(総資本/株主資本)3倍といった構成が欧米企業比較で求められる。5年でROEを15%にまで上昇させるためには(実際にその水準まで高くならなくとも)、日本企業全体を通じて、そうとう思い切った継続的改善が不可欠である。ポイントの1つは、(1)事業再編を進めて総資本回転率を上昇させることができるのか、(2)高付加価値化(中・韓・台などとの差別化)を図りながら、税引マージンのさらなる引上げが可能なのかである。その手段として、上述のように業界再編やM&Aの有効活用が求められる。セクターでは電機の抜本改善が不可欠だろう。
かって構造不況といわれた鉄鋼や海運、商社などをみると、事業部門の収益基準を明確化し、捨てる経営(不振事業撤退の徹底)を断行してきたことを一因として、収益力は劇的に改善した。国際競争力が低下し、収益環境が厳しい電機業界にとっても、こうした鉄鋼や海運、商社などの復活事例は大いに参考になるはずである。
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