投信キャッシュフローに変化の兆し

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2005年11月22日

  • 松原 英人
直近2ヶ月弱の傾向だが、投信による国内株式売買動向が買い越し基調を見せている。本稿でも再三述べてきた投信を媒介とするリスクマネーの新たな循環形成過程に入ったものと判断してよいのだろうか。材料不足で即断はできる状況にはないが、明らかに有望な傾向である。

以前にも用いたグリッド(縦軸:成長性、横軸:配当利回り)を用いて検証してみよう。2003年初頭までの景気後退局面では、上場企業のファンダメンタルズが悪化していたこともあり、横軸の配当利回りが信用リスクのバロメーター役を果たしていた。配当利回り、すなわち配当に対する市場評価が低い銘柄には怖くて手が出せない雰囲気もあり、売買回転率で市場平均を上回るセルは全て低配当銘柄に位置していた。売買がわずかに活況を示したのは、市場平均以上の成長と低配当利回りという組み合わせの優良株セルに限られており、その買いの主体は外国人を主体とする機関投資家に限られていたものと思われる。

景気回復局面以降も、売買動向は優良株セルを中核としながらも、縦横方向に発散する傾向を見せ始めたが、この発散傾向を示す売買の主体は個人投資家であると思われる。デイ・トレードなど短期売買の盛り上がりもあって、低成長、低(あるいは無)配当株といった「ボロ株」セルまで活況を呈し始めた。これだけであれば、むろんあまり建設的な傾向とはいえない。

一方、本年に入り、高配当利回りセルに手が伸び始めている。これは、個人投資家による投資以上に、投信による好(高)配当株ファンドの販売好調を追い風に投信による売買が背景にある。しかし、好配当株ファンドの設定・募集がピークアウトするまで、投信による売買は売り越しを続けていたことが肝心であろう。つまり配当狙い投信の供給だけででは、投信によるストック面での貢献は認識できない。しかし、最近になって、配当狙いにも限界が生じてきたこともあり、成長株ファンドの新規設定がいくつか出始めている。時系列的に見ても、投信による買い越し基調はこちらの成長株ファンドの設定増加と歩調を合わせている可能性が高い。具体的にどの銘柄がどの程度、成長株ファンドの投資対象となっているか、依然データ不足で判断できない面もある。しかし、配当狙いだけでは、ポートフォリオの長期低落を避けられない。成長性のあるファンドへの長期投資を通じてのみ、個人投資家からのリスクマネー還流は可能となるはずである。その意味で、成長株ファンドを通じて始まった小さな好循環については、個人金融資産再配分の成り行きも左右する重要な兆候として注視べきである。

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