テラヘルツ波産業の可能性

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2005年11月16日

  • 大澤 秀一

テラヘルツ波とは、一般に、周波数が100G(ギガは10億)Hzから100T(テラは1兆)Hz程度の電磁波を指す(下図参照)。テラヘルツ波は、これまで産業利用するのに有効な発生・検出技術がなかったため、ほとんど利用されてこなかった。ところが、大学を中心にしたここ20年ほどの研究で基礎技術にめどが立ち、焦点は企業を中心とする用途開発に移っている。最近の調査によれば、10年後の2015年には約7千億円の市場創出が予測されている(※1)。 電波と光の境界領域にある未開拓の周波数帯を有効に活用し、幅広い分野で具体的な用途開発が進められている。

情報通信分野では、テラヘルツ波の高い周波数を利用した超高速・大容量の無線通信が有望視されている。周波数と伝送速度の関係を簡略して説明すると、周波数の1%~10%の数値が実現可能な最大伝送速度とされる。仮に周波数が120GHzであれば、1G~10Gビット/秒程度の高速通信が達成される。実現すれば、無線系と有線系のシームレスな情報通信が可能になる。先行例として、今夏から、アクセスポイントがないイベント会場から有線系施設への非圧縮で高精細な映像コンテンツの送信実験が始まった。将来的には、物理的あるいはコスト的に有線系の通信設備が敷設できない場所の通信手段として事業化される見込みである。

安全保障分野では、テラヘルツ波の直進性を利用した物質検出が注目されている。金属は透過しないが、生物等の有機物はそこそこ透過し、プラスチック、紙、半導体等はよく透過する。これらの性質を応用して、人に照射して服に隠されたナイフ等を遠隔探知する例や、開封禁止の封筒内の禁止薬物等を同定するといった例が報告されている。テロ対策が必要な空港や港湾、物流拠点や金融窓口等のセキュリティーに有効活用されるものと思われる。

他にも、バイオ・医療分野、工業分野、農業・食品分野、環境分野、宇宙分野などでもさまざまな用途開発が行われている。この周波数帯に固有の性質を利用しているため、代替が困難な技術も多く、実用化の意義は大きい。事業性は用途ごとに異なるため慎重な検討が必要になるが、導入が決まれば使わざるを得ない標準的な製品やサービスに発展する可能性を秘めたものが多く見受けられる。これまでそれぞれの周波数帯の電磁波が固有の産業を創出してきたように、テラヘルツ波にも産業として大きな可能性を感じる。

(※1)「テラヘルツテクノロジー動向調査報告書」財団法人テレコム先端技術研究支援センター(2005年3月)

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