「米国型企業戦略」≠「M&A」

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2005年11月14日

  • 鈴木 誠
最近、わが国の新聞紙上を賑わすライブドアや楽天による企業戦略を見て、多くの日本の人々は、伝統的な日本の企業観との違和感と共にわが国における本格的な米国型企業戦略の到来を感じたのではないだろうか。

一般にわが国では、米国の企業経営はといえば「アグレッシブ」で「抜け目がなく」、虎視眈々と「(敵対的な)買収・合併」の機会を伺っているという言葉で表現されるような力任せに経営を行うイメージが強い。特に、「買収・合併」は米国企業の企業戦略の代名詞にようにさえ受け取られることが多い。

では、代名詞である「買収・合併」は企業経営者にとって成功をもたらすのであろうか。日本にいるとイメージ先行となりがちだが、実際にはそうではないらしい。もちろん、カリスマ経営者であるジャック=ウェルチ(元GE社CEO)は在任中に534件の買収を行ったこと、あるいはコズロウスキー(元TYCOのCEO)は169件の買収を行っていることを鑑みるならば、「成長する企業」の経営戦略の必要条件として「M&A」があげられると理解するのも無理はない。しかし、わが国において喧伝される多くは成功事例であって、失敗のケースはほぼ表に出ることがないことから、こうした「成功する企業」と「M&A」とを結びつける関係はかなりのバイアスを含んでいるといえる。

こうした推測を裏付けるように、ビジネスウィーク誌によれば、M&Aを実施した企業の61%は株主の価値を喪失しているというショッキングな結果を報告しており、「成長企業の経営戦略」=「M&A」の図式は成立しないことを示している。そして、M&Aにおいて企業価値を喪失することとなった個別のディールを分析した結果によれば、いくつかの特徴が明らかとなっている。まず、第一に買収価格が被買収企業の価値と比較して高すぎたこと、第二に買収において株式交換を用いていること、そして長期に保有したからといって失敗した買収案件の損失は取り戻すことはできないことなどがわかった。さらに、ビジネスウィーク誌の調査結果は、経営者の行動に関して重要な示唆を与えている。企業経営の頂点に立つCEOにとって経営戦略の失敗は許されない。したがって、被買収企業の価格が本来の価値を上回った場合、合理的に考えれば撤退を検討すべきだが、撤退することにより自らのレピュテーション(評判)に傷がつくことを恐れて、つまりエゴによって想定外に高い価格でもM&Aを実施してしまったといえるのではないだろうか。

最後にある米国有数の企業の元幹部の話を紹介したい。「企業においてほかの企業と事業を共同するケースは少なくない。その際に、最も企業経営者として重視すべき点は、相手方企業経営者トップとの個人的な関係を成立させ、強固にすることである。個人的な関係はかならず、相互の信頼を醸成し、企業同士の提携、合併、買収などがスムーズに運ぶこととなる。そして、勤務時間外においても相手企業トップと共に過ごす時間を作ることは必要不可欠である。」  わが国の企業経営者においても企業戦略を実行する上で、こうした先人の教えをしっかりと受け止めて欲しいものである。

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