「柔らかい」意思決定
2005年11月11日
人はあらゆる局面で意思決定を行う必要に迫られている。目的地までどのような経路で行けば最も早く到着することができるかといった身近なことから、会社における経営判断の様に重大な決断まで、様々な意思決定の機会に見舞われる。 これらの意思決定に対しては、その時の感覚で意思決定を行うこともあれば、綿密な調査・分析により意思決定を行うこともあるであろう。 このような様々の意思決定を定量的にサポートする学問として、オペレーションズ・リサーチ(Operations Research:OR)がある。 ORでは人が直面する数々の問題(分析、意思決定、作戦立案、計画設定など)を数理的にモデル化し、数理的な手段を用いて解く方法が研究されており、その適用分野は製造業の生産管理、都市・交通問題、経営に関する問題など広範囲に渡っている。 金融・証券の分野で最も有名なORの適用例は、ハリー・マーコビッツが提唱した「平均・分散モデル」によるポートフォリオ最適化で利用されている「二次計画法」であろう。ポートフォリオ最適化は、資産に対する様々な制約の下でリスクを最小化するような最適資産配分を決定するものである。ポートフォリオ最適化においては、最適化を行う基準が明確である為、二次計画法を利用して得られた解は「固い(厳密な)」意思決定と言える。 しかし、現実においては意思決定を行う為の基準が複数あり、それら基準の順位関係が明確に定められないまま意思決定を行わなければならない局面が非常に多い。 このような局面における意思決定をサポートするために利用されるOR手法の一つとして「階層化意思決定法(Analytic Hierarchy Process:AHP)」が挙げられる。 AHPは複数の基準に対して一対比較で評価を行い、それら一対比較の結果を積み重ねることによって定量的に基準を順位付けし、その基準に基づいて意思決定を行う手法である。この手法の特徴としては、
などがある。これらの特徴から、AHPは感覚による意思決定を定量的にサポートしたものであり、二次計画法の様な「固い」意思決定手法に対して、「柔らかい」意思決定手法と呼ぶことができるであろう。 意思決定においては、以前にも増して判断基準の多様化・複雑化が進み、それらを評価する手法に対するニーズは高まっていくと考えられる。その為、「固い」意思決定に対するOR手法の研究開発を更に進めていくことはもちろんであるが、AHPをはじめとする「柔らかい」意思決定とその意思決定を定量的にサポートするOR手法の研究開発を進めていくことがますます重要になっていくであろう。 |
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
関連のレポート・コラム
最新のレポート・コラム
-
議決権行使助言業者規制を明確化:英FRC
スチュワードシップ・コード改訂で助言業者向け条項を新設
2025年06月10日
-
上場後の高い成長を見据えたIPOの推進に求められるものとは
グロース市場改革の一環として、東証内のIPO連携会議で経営者向け情報発信を検討
2025年06月10日
-
第225回日本経済予測(改訂版)
人口減少下の日本、持続的成長への道筋①成長力強化、②社会保障制度改革、③財政健全化、を検証
2025年06月09日
-
2025年1-3月期GDP(2次速報)
実質GDP成長率は前期比年率▲0.2%に改善するも民間在庫が主因
2025年06月09日
-
「内巻」(破滅的競争)に巻き込まれる中国自動車業界
2025年06月11日