長期金利の謎—過剰貯蓄と過剰流動性

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2005年10月04日

  • 田谷 禎三
世界的な低金利が続いている。米国の金融引締めが2年以上続いているにもかかわらず、米国をはじめ主要各国の長期金利は低位で安定している。グリーンスパン米連銀議長もコナンドラム(なぞ)と言っている。

昨年あたりまでは、期待インフレ率が低下したためではないかと言われていた。中国をはじめ多くの新興国が世界経済に本格参加するようになって競争が激化し、最終財の価格に不断の低下圧力がかかり続けている。さらに、期待インフレ率の低下は、各国中央銀行の政治からの独立性が強まってきたこととも関係していると考えられている。

また、長期金利の低下、つまり、債券価格の上昇は、債券投資が増加したためではないかとも言われている。人口高齢化による保険・年金資産の拡大とそれらによる長期債投資の拡大が背景にある。

しかし、これらの要因は長期的な要因で、ここ数年の長期金利の低位安定を説明するものではない。今年に入って、特に注目されてきている要因は世界的な過剰貯蓄である。国のレベルでは、中国を含めた東アジア諸国、それに、中東、ラ米、ロシアなどの産油国の国際収支が改善し、貿易・経常収支が黒字となり、その分資本を輸出するようになってきている。つまり、これらの国が貯蓄超過国になったということである。さらに、日本などの経常収支の黒字は減らないし、ドイツも急速に黒字を増加させてきた。また、先進諸国の中では、本来投資超過セクターであるはずの企業部門が貯蓄超過セクターとなっている。企業は、収益が好調な割には設備投資に慎重だし、人件費の引き上げにも慎重である。過剰な貯蓄が投資される過程で金利は低下する。しかし、過剰貯蓄が原因で金利が下がったのであれば、経済活動水準は低下するはずである。(IS-LM分析を使うと、ISカーブが下方にシフトし、LMカーブとはより低い金利とより低い産出量のところで交わる。)この点は事実と反する。世界経済は順調に拡大してきている。

もう一つの説明は、金利の低下は過剰貯蓄より、過剰流動性(金余り)によるところが大きいとするものである。金融緩和状況が続き、過剰に供給された通貨が保有されるためには金利は低下しなければならないし、経済活動水準は高まるはずである。(IS-LM分析では、LMカーブが下方にシフトし、ISカーブとはより低い金利とより高い産出量のところで交わる。)こちらのほうが事実に合う。この後者の説明が最近における低金利の主因とすれば、主要国、特に、米国の政策金利が景気に対して中立的となる水準を越えて引き上げられると予想された時点で、長期金利の低位安定は終わるのではないか。逆に、そうした予想がされない限り、低金利は続くのではないか。

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