二つの“ハリケーン”に翻弄される
2005年09月20日
8月末からの2週間の間に、日米両国で大きな風が吹き荒れた。それらがもたらした結果・状況をみると、盟友とされる両国の首脳が置かれた立場は大きく異なるものとなった。
一つは正真正銘のハリケーン「カトリーナ」であり、8/29に米国メキシコ湾岸に上陸し過去最悪といわれる自然災害を引き起こした。現時点では、死者は数百人にのぼり、数十万人の人々が避難生活を余儀なくされている。さらに、原油・天然ガスの生産や石油精製拠点が大きな被害を被ったために、原油やガソリン価格は一段と上昇したままである。9/15時点でも原油生産能力の復旧率は5割に満たない。ブッシュ大統領の支持率はハリケーン襲来前の段階で就任以来最低になっていたが、被害への対応の不手際に対する批判やガソリン価格高騰への不満から、一段と低下するとみられる。
もう一つは9/11に投票された日本の総選挙であり、与党が全体の2/3以上の議席数を獲得するという結果に終わった。敗れた候補者からは“小泉ハリケーンにやられた”という声もあがった。二者択一を迫る方式が結果として成功し、内閣の支持率は大幅に上昇している。
すっかり負け組の様相を呈するブッシュ大統領だが、米国経済そのものは2001年の0.8%をボトムに2004年には4.2%と右肩上がりで成長してきた。ハリケーン襲来や原油価格高騰に直面しながらも、2006年は3%台前半と、潜在成長率並みの成長が現時点の市場コンセンサスになっている。ブッシュ政権は、2001年9月の同時テロ事件以降、安全保障面の勝利と経済の立て直しという二兎を追ってきたが、前者については依然としてイラク問題の混沌から脱け出せず、米軍撤退の具体的なスケジュールは未だ立っていない。
しかし、成功したとみられる後者にしても、カトリーナの襲来によって歪みが表面化したようだ。ニューオーリンズ市内に取り残された貧困層の映像が流されたが、2004年の貧困率(人口に占める貧困層の比率:貧困層とされる所得基準は家族の規模や構成によって異なる)は12.7%になり、ブッシュ政権になってから4年連続で上昇している。2004年に限れば、アジア系の貧困率は低下したが、白人や黒人では上昇した(両者の水準は異なるが)。また、年間所得(中央値)は5年連続で減少している。このように、ブッシュ大統領が推し進めてきた減税政策や高成長の影で、消費者の二極化が着実に進んでいる。被害が大きかったルイジアナ州、ミシシッピ州やアラバマ州は全米のなかでみると、所得が低く、貧困率の高い地域に属する。
ブッシュ政権は、ハリケーン被災者救済・復旧のために計623億ドル分の緊急予算を組んだが、本格的な復興費用はもっと巨額になると見込まれており、追加の財政支出は避けられないだろう。税収増によって2005年度の財政赤字は予想以上に縮小し、ブッシュ大統領の公約の一つである赤字半減の道筋がつくはずだった。だが、カトリーナ襲来によって出鼻を挫かれた格好だ。さらに、もう一つの公約である減税の恒久化が実現すると、2011年度以降の赤字額が急拡大するという試算も議会予算局から示されている。
高支持率の小泉首相が残り1年の任期を延長しないとするのに対して、支持率低下が止まらないブッシュ大統領の任期はあと3年以上残っている。果たして、ブッシュ大統領は思惑通りに歴史に名を残すことができるのだろうか。素人目には、ブッシュ大統領は内憂外患を抱えすぎている気がしてならない。名を残しつつある盟友に倣って、一点集中はいかがだろうか。
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政策調査部
政策調査部長 近藤 智也