国家消滅の危機に直面する島国ツバル

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2005年08月25日

  • 瀬越 雄二

南太平洋上に浮かぶアーチペラゴ、半径1000km以内には島影も存在しない南海の群島、それがツバルである。領土は日比谷公園の約2倍半の広さで、人口は約1万人。財政の主たる財源は、入漁料と出稼ぎ船員からの海外送金。近年、この南太平洋の小国が、島全体が水没の危険にある世界で最初の国ということから、国際的に注目を集めている。ツバルの最大標高は3.6m、平均標高は1.5m。近年の最高潮位の上昇は海岸線を侵食し、内陸部ではいたるところで地面からの浸水を引き起こしている。国連気候変動に関する政府間パネルは20世紀の100年間で海面が20cmから30cm上昇したことを認め、かつ、21世紀中に最大で約1mの海面上昇を予想する。ツバル政府は国土の水没という危機に直面して、2000年に国民の海外移住を決定した。ツバル政府はオーストラリアおよびニュージーランドの2カ国に対して、自国民の移民受入を非公式に要請した。オーストラリア政府は同要請を拒否し、ニュージーランド政府は環境難民としてではなく、年間75名を限度として、適格移住者(45歳以下で、英語が話せ、仕事が確保できる人)の受入に合意した。現在のところ事態には目立った進展は見られず、依然厳しい状況が続いている。

ツバルが直面する問題は人類がかつて経験したことのない問題を含む。厄介なのは、伝統的な国際法が想定する現象とは異なり、地球温暖化が原因となり発生する「潮位上昇による国土の自然的消滅」という点である。さらに、国土の自然的消滅といっても、海底火山の爆発あるいは地震という純粋な自然災害が原因ではなく、地球温暖化の結果として発生する現象であり、温室効果ガスの大量排出を行なった企業または当該企業の属する国の管理責任問題が関係してくる。ツバル政府は国際社会からの支援獲得の可能性が薄いと判断して法的救済手段の可能性を模索したが、提訴は行っていない。特定国の国際違法責任を追及するためには、受忍限度を越える損害の発生、原因行為の特定、損害と原因の因果関係、国家の注意義務違反などの立証が必要となる。単なる越境環境損害(製造物責任・原子力被害責任・廃棄物責任など)の場合でも立証には大きな技術的問題などが伴う。ツバルの場合はそれを上回る地球的規模の環境破壊が関係しており、伝統的な国家責任法理の適用には無理がある。ツバルに利用可能な法的救済措置はない。残るのは人道的支援のみであろう。但し、近隣諸国が難民認定を行い難民を受け入れるというのは現実的ではない。領土の水没は先の話としても、ツバル国民の生活は既に水害に脅かされている。孤島に暮らすツバル国民に逃げ場はない。我が国とオーストラリアまたはニュージーランドが主導して新しいタイプの支援体制はできないものか。

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