イギリスと欧州の微妙な関係
2005年08月10日
8月4日、イギリスの中央銀行であるイングランド銀行は、政策金利を0.25%ポイント引き下げて4.50%とすることを決定した。イギリスでは2004年の経済成長を牽引した個人消費の減速が目立ち、鉱工業生産も低迷。GDP成長率は2004年の3.2%から2005年第1四半期は前年比2.1%、第2四半期は同1.7%と低下傾向にある。既に7月の金融政策委員会で金利据え置きと利下げ意見が拮抗していたため、今回の利下げは事前に予想されていた。
2005年に入って景気減速が目立つのはイギリスに限ったことではない。同じ欧州でイタリアはリセッションに陥り、独仏はプラス成長ではあるが消費マインドと企業マインドが共に悪化した。しかしながら、この3国を含むユーロ圏の金融政策を担う欧州中央銀行(ECB)が利下げに踏み切る可能性は、ここ2ヶ月で大幅に低下したとみられる。
最大の理由は、ユーロ圏の企業マインドが6月、7月と持ち直したことである。特に年初から急速に悪化していた在庫過剰感が改善、また新規受注判断が減少から拡大へ転じた。ユーロ安と米国を筆頭に世界経済が堅調な伸びを維持していることが追い風となっている。輸出見通しが改善し、企業部門がまず元気になるという通例の景気回復パターンが動き出したため、ECBは過去最低水準にある政策金利を追加的に引き下げる必要性を認めないであろう。加えて、足元の物価は落ち着いているものの、ユーロ安が輸入物価上昇を通じてインフレ要因となる可能性が出てきている。
一方、イングランド銀行の政策金利は、2003年11月から2004年8月にかけて5度の利上げで3.50%から4.75%に引き上げられた。住宅価格高騰が個人消費過熱をもたらすことを懸念して始められた金融引締めは、住宅価格の伸び率鈍化、個人消費抑制の目的を達成した。ただ、利上げによって個人消費が想定以上に冷え込む懸念が出てきており、利下げ転換となったわけである。
イギリスとユーロ圏は一見同じように減速しているようで、その原因は金融引締めによる消費減速、過剰在庫に伴う生産調整と異なっている。また金融政策も、引き締めを経てから緩和に動いたイングランド銀行、緩和を継続したままのECBと異なっている。イギリス人は「欧州とイギリス」という表現をよく用い、自分たちと欧州の間に一線を画しているが、このような景気・金融政策の格差もその認識の根拠の一つとみられる。
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