ユビキタスとデジタル・ディバイド

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2005年07月29日

  • 杉山 秀樹

先日、関東地方で震度5強の地震があった。何の前触れも無くやってくるこのような災害に皆さんはどのように行動されたのか。たぶん、子供やお年寄りのいる家庭ではその所在の確認に急がれたのではないだろうか。筆者も外出していた小学生の子供のことが何よりも最初に頭に浮かんだが、居場所の確認のしようがなく途方にくれた。その時感じたのは、「GPSを持たせていれば」だった。

東京23区の同規模以上の地震は13年ぶりとのことで、首都圏の交通機関は一時、マヒ状態に陥り、エレベータ救出要請が相次ぐなど、思いのほか混乱を招いた。このことは、危機管理における社会インフラの問題を認識させられただけでなく、個人での対策の必要性も痛感させられるものとなった。

今年3月に総務省の発表した「ユビキタス社会の動向に関する調査」によると、ユビキタス・ネットワーク社会に期待するものとして、“暮らしの安心・安全が高まる”、“暮らしが便利になる”に次いで“災害発生時の対応が迅速になる”が挙げられており、人々の災害に対する関心の高さがわかる。昨今の痛ましい災害や事故からも、ユビキタス社会の到来に向けて、単なる暮らしの利便性向上だけでなく、危機管理に関するニーズはさらに高まるものと考えられる。

ITインフラでは、GPS機能やPHS・携帯電話の基地局を用いた位置情報サービス分野について、今後、充実が期待されている。小学生が登下校に犯罪に巻き込まれる事件も多発していることから、RFIDを用いた生徒の登下校を管理するシステムの試験導入が実際に開始されている。

一方で今後のユビキタス社会を支えるITインフラの課題として、“デジタル・ディバイド”(インターネットやパソコン等の情報通信技術を利用できるものと利用できない者の間に生じる格差)が“安全格差”として顕在化していくことも予想される。

先頃、総務省の研究会が「次世代ブロードバンド構想2010-ディバイド・ゼロ・フロントランナー日本への道標-」の最終報告にてブロードバンド基盤の全国整備に向けた課題や方策についてとりまとめているが、その中でもデジタル・ディバイド解消の問題において、これを放置した場合の地域による経済的格差は時間とともに拡大すると指摘している。

しかし、ITサービスの利用者の視点からは安全確保といった身近な格差を無視することはできない。ITインフラを利用した危機管理サービスにおいては、消費者負担も含めユニバーサル・サービスとして普及することが期待される。

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