ペット供養は課税か非課税か?
2005年07月25日
慶應義塾大学の中島隆信教授によれば、「料金を提示するのは収益事業」であり、「補助金が入っておらず、公益性が担保されない宗教法人の場合、料金を提示しないということが公益性の高さを証明するための具体的な手段となる」 のだという。
一方、慈妙院が主張するように、人形供養・針供養などが非課税で、ペット供養が課税対象となるというのはいささか奇異な感が否めないことも事実である。そもそも、日本における動物供養のはじまりは今から760年ほど前にさかのぼるといわれている。ペット供養の源流ともいうべき動物供養にそれなりの歴史があるのだとすれば、人形供養や針供養の非課税措置との不整合性を追及することは一定の説得力があろう。さらに、中島教授が指摘するように「ペット供養は苦しみからの救済を求める人々に対し、救いの手を差し伸べている行為であり、明らかに宗教活動といえる」 のである。
今回の事例で最大の問題となるのは、小牧税務署の課税措置が単独判断なのか、それともバックに国が介在しているのかということだろう。6月17日、政府税制調査会が公表した『新たな非営利法人に関する課税及び寄附金税制についての基本的考え方』をみると、(1)収益事業の範囲、(2)軽減税率及びみなし寄附金制度、(3)金融資産収益に対する課税のあり方の3点について、公益法人等に共通する横断的な課題として再検討する必要があるとしている。この内容からすると、積極的に関与しているかどうかは別として、国の強い意向が反映されていると考えるべきだろう。何よりも公益法人制度改革の最大の目玉は課税問題であり、その背景には国の財政危機があることを常に意識しておく必要がある。
今後、宗教法人全体として最も注意しておかなければならないのは、コペルニクス的転回が起きる懸念である。「ペット供養の課税がおかしいのではなく、人形供養・針供養などが非課税であることがおかしい」 という議論に転回するだけでなく、最終的に「死者の供養も対価を得ている」という解釈論にまで飛躍してしまう恐れである。このプロセスにこそ、全面的課税につながる危険性を内包しているのである。中島教授が指摘するように、「どんなに宗教活動の一環だと力説する事業であっても、活動の対価を受け取っている以上は、何らかの収益事業に当てはめようと思えば当てはまってしまう」 のである。
以上を勘案すると、白鴎大学の石村耕治教授が述べているように、「公益法人制度改革の問題で宗教法人が考えるべきことは、今ある宗教法人法に規定されているガバナンス、ディスクロージャー、アカウンタビリティの規定を粛々と守っていく。そして、その過程で、たとえば、所轄庁が聖の部分まで開示を要求するようなことに対しては、徹底的に抗議をしていく。あくまでも所轄庁の開示要求を世俗的事項に限定させ、かつ世俗的な部分についての公益性をしっかり確保していく」 ことが肝要なのだろう。
参考文献等:4月2日、6月28日付中外日報
中島隆信著『お寺の経済学』(東洋経済新報社)
宗教法人 平等山福祉寺HP
白鴎大学・石村耕治教授『公益法人制度改革と宗教法人への影響と課題~宗教法人も警戒を要する「営利法人並み課税」への転換~」(財団法人 全日本仏教会)
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