アジア通貨高への反転で、輸出関連セクターの上値は重い

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2005年07月20日

  • 由井濱 宏一

足元のアジア市場が好調である。香港、シンガポール市場は4~5年ぶりの高値圏で推移し、韓国市場もほぼ11年ぶりの高値水準、オーストラリア市場は史上最高値更新を継続している。背景には、ISM指数の反発など米国景気の底堅さが確認されていることに加えて、対米ドルでアジア通貨の下落が続き、とりわけ輸出セクターへの投資センチメントが改善したことなどが挙げられる。特に米ドルが強含んでいるのは、脆弱な欧州景気、米国利上げ継続に伴う金利差拡大に加え、先のASEM財務相会議で中国の温家宝首相が、人民元改革について改めて「市場原則に基づき柔軟に対応するが、改革にはなお多くの準備が必要」と発言し、早期の人民元改革への期待が後退したことがある。

ただ、米ドル高の流れがこのまま続くとは見ていない。ひとつには、高水準で推移する原油価格が米国の経常赤字拡大につながりやすいことがある。05年第1四半期の経常赤字(約1,750億米ドル)から勘案すると、この赤字分を埋めるのに月間580 億米ドル程度の資金純流入が必要になるが、米財務省のデータによると3~4月の月間資金純流入は500億米ドルを割り込んでいる。今後、原油高継続→赤字拡大懸念→米ドル安見通しの台頭で資金流入がそれほど増えず、この程度の資金純流入に留まれば、米ドル安の見通し期待に拍車をかけてしまう恐れがある。もうひとつは、人民元改革期待の盛り上がりである。現在は先述したように改革期待は後退しているが、米財務省が中国を「為替操作国」と認める報告書を提出する可能性のある05年10月を前に市場では改革実現を織り込む動きになるだろう。9月頃には胡錦濤国家主席の米国訪問も控えていることから改革に対する期待が高まりそうだ。さらに、米国の金融引締めが、インフレ懸念の後退に伴って今四半期中にも終焉を迎える可能性が指摘できる。米国との金利差拡大がこれ以上広がらないとする見方が台頭してくれば、アジア通貨を買い戻す動きも出てこよう。従って、現在のアジア通貨安傾向は短期間に収束する可能性が高く、通貨安進行に伴って上昇してきた輸出関連セクターについては利食い売りのタイミングを見極めることが重要になる。

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