置き去りにされる長老

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2005年07月19日

  • 渡辺 浩志

梅雨明けも間近となり、夏本番を迎えようとしている。気象庁の発表では今年の夏も平年並みに暑い。いよいよエアコンなしでは過ごしにくい季節に入る。

さてこのエアコンであるが家庭用の耐久消費財の中では特徴的な買い替えサイクルを持っている。家庭内で長く使う耐久消費財といえば、乗用車か冷蔵庫という印象があるが、平均使用年数で見ると意外にもエアコンが最長老なのである。乗用車が7.2年、冷蔵庫が10.1年に対して、エアコンは10.9年も使用される(※1)

デジタル家電と異なり、技術進歩のあまり早くない白物家電の買い替えサイクルは長くなりがちだ。さらにエアコンは夏と冬のみの使用が多い季節商品であるため、年々高まる省エネ効率を気に留めつつも、買い替えに踏み切ろうかと考えているうちに鈴虫が鳴き始める季節に入るのである。

このような特徴をもつエアコンがあっさり捨てられる局面がある。実は買い替え理由のうち、エアコンだけに突出して多いのが「引越し」だ。買い替える人の十人に一人は引越しを契機にしているのである。あの重い冷蔵庫ですら新居に連れて行くのに、エアコンだけは置き去りなのである。

これにはいくつかの理由が考えられる。(1)新居に移るに伴い、インテリアの一部としてのエアコンを心機一転新しいものにしたいという気持ちの問題。(2)エアコンは移設する際、真空引き・ガスチャージなど、素人には難しい工事を必要とするという手間の問題。(3)さらに大家の同意の下、今まで住んでいた家に残していけば家電リサイクル料がかからないばかりか、場合によっては造作買取請求(※2)をすることもできる。このように引越しを契機に買い替えるインセンティブに事欠かないのだ。

さらに私が最近引越してみてわかったのは、コストの問題だ。引越し業者は、エアコン工事は外注しているため、料金を勉強できないという。結局、2台で8万円の旧式エアコンを移設するのに5万円もかかってしまった。本体価格に比べあまりにも高すぎる移設料金。引越しに伴う買い替えには気分や手間の問題だけでなく経済合理性まであるのだ。

長く使うことのみに固執して省エネ効率の悪い機器を利用し続けることは環境にも懐にも優しくない。しかし、まだ十分使えるものをコストの問題だけで捨て去るのは本当のエコではない。最近は地球環境に優しい機器・省エネ効率の高い機器の購入には公的な助成金(または融資)が出る時代である。それらの基金がエコに寄与することを目的としているなら、転居に伴いコストの問題のみからエアコンの買い替えを検討している人に対しては、移設料金の助成があっても良いのではないだろうか。

(※1) 内閣府「消費動向調査」
(※2)借家人が家主の合意を得て建物に対して付加した造作を家主に対して、時価で買い取らせること。

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