CMスキップとテレビ局のビジネスモデル

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2005年06月09日

  • 櫻岡 崇

 インターネットは、広告メディア及び商取引チャンネルとして目覚しい成長を続けている。そうした一方で、テレビの広告メディアとしてのステータスが揺るぎつつあると印象付ける事柄や報道が増えている。インターネット利用拡大によるテレビ視聴時間の減少、ライブドアによる買収騒動、NHK受信料不払い、CMスキップの問題などである。

 先週もあるシンクタンクより、HDD(ハードディスク)を搭載したDVR(デジタル・ビデオ・レコーダー)の普及により、CMスキップが常態化しているとのアンケート調査結果が報告された。当該報告中のCMスキップによる広告価値損失額の推定はいささか短絡的ではあるものの、テレビ局がビジネスとして広告収入をどのように維持していくか、改めて考える必要があるのは確かであろう。

 まず、CMスキップはなにも今始まった問題ではない点を認識すべきである。リアルタイム視聴が中心だったころから、すぐにチャンネルを変える「ザッピング」という行為はあったし、CMがテレビに表示されている間にちょっとした用事を済ますなど、受身的なCMスキップ行動を取る視聴者は少なくなかったはずである。DVRの浸透により、ビデオデッキに比べてタイムシフト(オンデマンド)視聴が手軽となったことで積極的な行為としてCMスキップが顕在化しただけである。

 インターネットのようにオンデマンドで利用できる情報・コミュニケーションメディアの発展を背景に、DVRというツールの浸透でテレビにも時間制約を超えた利便性が求められる傾向となっている。テレビ局は、リアルタイム視聴前提ではなく、タイムシフト視聴を考慮した経営を志向する発想も必要ではないだろうか。リアルタイムでは多くのリーチを獲得するのが困難な時間帯の番組でも、DVRによるタイムシフト視聴で掘り起こしが可能となる。すなわち、番組単位で考えればリアルタイムの暇つぶし的な視聴者層が減少する一方、タイムシフト視聴で本当に興味を持つユーザー層を獲得でき、リーチの質的向上が期待できるのである。

 DVRはスペック向上が続いており、ダブルチューナー搭載で2番組同時録画可能なものや大容量のHDD搭載のものが登場している。PCでは既に主要な全地上波局の番組を1週間分丸ごと録画できる機種も登場しているが、パーツの低価格化が進めば、この先一般的なDVRでも同様な機能を持つ製品が普及価格帯で登場してもおかしくない。その時、テレビ放送は視聴者にとって時間的制約がほとんどないメディアと変化していることになる。

 テレビ局は、CMスキップを敵視するよりも、DVRに保存されるCMデータを活用し、効果あるリーチの獲得とその測定へ取り組んでいくほうが建設的と見られる。そのためには、家電メーカー、インターネットサービス事業者との連携が不可欠である。テレビ局は、デジタル放送への移行を契機にコピーワンス制御によるコンテンツ保護の方針を打ち出したが、視聴者の利便性向上なしにメディアとしての発展は望めない。今一度リーチの量的・質的変化を見据え、視聴者のロイヤルティ向上を図ることが優先課題であろう。

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