長期金利の低下は語る

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2005年06月07日

  • 小林 卓典

長短金利差は景気の先行きを予想する重要な情報を含んでいると考えられており、それを裏付ける実証研究は多い。そのため景気動向指数の先行系列の一つとして、長短金利差を用いるのが一般的である。日本、米国、OECDの景気先行指数など、いずれも長短金利差を採用している。

このところグローバルな共通現象として観察されているのが、長期金利の低下である。インフレを抑制するために短期の政策金利が引き上げられる過程で長期金利が低下し、長短金利差が縮小する状況は、債券市場が景気後退のシグナルを送っていると通常は解される。

今年2月の議会報告でFRBのグリーンスパン議長は、世界的な長期金利の低下を「謎」(conundrum)であると発言した。FRBは、昨年6月以降、8回にわたりFFレートを引き上げてきたが、その間、雇用拡大が軌道に乗り、ようやくソフトパッチ傾向を脱却したと考えられた。そして景気回復を持続的なものとするためには、利上げを継続して実質金利の正常化を計り、インフレの芽を摘むことが必要と判断された。しかし、長期金利の低下は続き、長短金利差はさらに縮小した。5月、グリーンスパンは、利上げにも関わらず勢いの衰えない不動産価格の上昇を「泡」(froth)と形容した。それに対する債券市場の反応は、もう一段の長期金利の低下であった。

長期金利の低下は、FRBの考えとは裏腹に利上げ継続がもたらす景気後退リスクに対して警鐘を鳴らしているともとれる。長短金利差の縮小は、過去数ヶ月、日・米の景気先行指数を低下させることにも繋がっている。ただし、このような市場の動きはいつも合理的で正しいとは限らない。だから、時に「謎」となるのだが、グリーンスパンの謎解きは、早期の利上げ打ち止めをもたらすのかどうか。今はまだ年末にかけて利上げが継続される可能性の方が高いように思われる。

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