ITと作法

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2005年05月27日

  • 小原 誠

前回のコラム(アーキテクチャと様式美)で、ITアーキテクチャを様式美として整理できれば、ITはより理解しやすくなると述べた。しかし、ITアーキテクチャの成果物は可視化しにくく、様式美を頭の中でイメージできないという成約がある。そこでITにふさわしい様式美は何かを考えてみたのだが、ITの様式美は「作法」として表現するのが適当と思える。作法と言うと、最近ではマナーの意味で使われることが多いが、礼式や行儀といった、ものごとの正しい方法である。茶道や華道の世界では、作法は基本とされる。

例えば茶道では、茶室の配置から茶碗の持ち方に至るまで細かな作法が決められている。茶会のホストである亭主は、茶会を演出し、すべての作法をタイミング良く進行する。また客も作法を心得た振る舞いをしなくてはならない。しかし茶道で大事なのは作法という形式ではなく、形式に表象された本質である。茶会の本質は、客を招き最高の状態でお茶を飲んで頂くという、「もてなし」とされる。すべての作法はその本質のためにあると言って良い。その本質が表象されるからこそ、茶道の作法は美しいのである。

IT構築は実は作法の集積である。仕様を定義するフォーマット、コーディング規約、テストによるレビューと品質管理などあらゆる規定された作業は、IT作法と言っても良い。EAやSLCPなどのIT作業標準は、作法の体系や流派のようなものである。 ITプロジェクトを茶会に例えれば、亭主たるプロジェクトマネージャは、茶室というIT開発環境を整備し、作法としての作業プロセスを規定し、プロジェクトを管理する。そして、ITプロジェクトでも大事なのは、作法の形式を遵守するだけではなく、形式に表象された本質を理解することである。ITプロジェクトの本質は、顧客の要件を充分に理解し、限られた時間とコストの中で最高の品質を成果とし、顧客満足度を向上することにある。顧客満足度向上という本質を意識することで、提案プレゼンテーション、画面設計、トラブルの対処方法など、これらのIT作法は、様式美として洗練されるのである。

聞くところによると、トヨタ自動車はアメリカで成功した高級ブランド「レクサス」を、今夏日本でも展開するにあたり、営業担当者に小笠原流作法の研修を受けさせるそうである。一流の作法を身につけるることで、高級感を演出する目的である。私たちも小笠原流作法を習得すれば、顧客満足度の向上につながるだろうか。

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