アーキテクチャと様式美

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2005年03月18日

  • 小原 誠

アーキテクチャという表現はITの世界でもよく使われている。データ・アーキテクチャやアプリケーション・アーキテクチャのように、システムの基本構造や設計の説明に用いられることが多い。最近では、エンタープライズ・アーキテクチャ(EA)という概念も、よく取りあげられている。

アーキテクチャとはもともと建築用語であり、建築様式と訳される。建築物の構造や工法を含めた知識の総体を意味している。建築の世界とITの世界とは、その構築方法において共通点が多い。設計と施工(開発)との工程分離や、構築における多くの企業の階層体制での参画などである。よって、アーキテクチャという用語でITの世界を表現するのも、自然の流れあろう。しかし、この表現の中で、建築の世界では当然なのに、ITの世界では欠けているものがある。それは、アーキテクチャの様式美である。

建築の世界では、アーキテクチャは様式美として理解されることが多い。パリのポンピドー・センターはポストモダンの代表とか、そもそもポストモダンはバロック様式の流れをくんでいるとか、このような議論の中で私たちは建築物の美しさを頭の中にイメージしている。成果物が建築物として可視化できるから、様式は美しさと同時に理解され、美しさを様式として整理しているのである。翻ってITの世界ではどうだろうか。アーキテクチャと様式美は結び付いていない。それどころか、そもそもITが美しいという議論を聞かない。ITの世界は理解しにくいと言われるが、美しさが頭の中でイメージできないことも、その理由の一つであるように思える。

ITアーキテクチャの様式美も、芸術として論じられべきであろう。そうなって始めてITの理解は定着するのではないか。音楽、絵画からスタートした東京芸術大学に建築科が置かれたのは戦前のことである。そこにITアーキテクチャの講座は、まだ無い。

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