欧州経済の活性化 ~起業家精神の育成、企業環境の改善が優先課題~

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2005年05月16日

  • エリック・ロマン

欧・米ともに企業設立の最大の障壁として、資金確保が1位、行政・手続きの負担が2位に挙げられているが、欧州ではそれらの比重がより高い。

企業の規制環境改善や手続き・行政負担軽減に関して改革措置が採用されても、その実施の評価やフォローアップ用の定量化ツールは不可欠となってきている。スウェーデン、デンマーク、オランダ、ベルギーはすでにその負担を測定しており、25%の削減目標を設定している。これを例として、EU全域への拡大も検討されている。また、各国で法的作業が積極的に進められているが、企業に有利な環境整備の主な措置として、1)破産法改正、2)商業登記の機能改善、3)単一窓口の一般化、4)企業サポート・オンラインサービスの拡大、5)電子政府、などがあり、また、中小企業向けに、6)税制・会計制度の変更・簡素化、7)保証融資、などが挙げられる。

企業設立の動向を見ると、EU平均(10ヵ国)(※1)の企業設立率は8.3%で米国を1.4%ポイント下回っているが、新加盟国の設立率(※2)は米国の水準を大幅に上回っているため、実際の格差は小さい。しかし、EUの企業設立率が低迷していることは懸念材料であり、近年の活性化策の効果が期待されている。また、企業設立所要期間の例を見ると、米国の5日に比べ、EU平均は36日である。そのため、所要期間、労力・手続き、コストの削減も重要課題であるが、最近、EUの状況は大幅に改善されてきている。特に、ベルギー、フランス、スロバキアが注目されている。

起業家精神は制度など外的環境が土台となるが、「失敗への恐れ」という無形要因にも左右される。そのため、数ヵ国で若年層を中心に教育・啓発活動が推進されている。2000年以降、起業性向(※3)は米・欧で低下トレンドにある(※4)。上昇が見られるのは北欧とルクセンブルクだけであるが、低いレベルからのスタートでもある。米国の33%に比べ、「失敗への恐れ」は欧州では50%と高い。成功の鍵はアイデアとリーダーシップには違いないが、新加盟国を中心に、欧州ではこれに加え、経済・政治の外的要因も重視されている。
米国では03年にベンチャーキャピタルの投資額が底を打ったが、欧州ではまだ低下トレンドをたどっている。さらに、ハイテク企業向けシェアも減少し続けている。しかし、ビジネス・エンジェルのネットワークは明確に増加しており、新しいベンチャー文化が定着しつつある兆候もある。

しかし、多くの中小企業はエクイティでなく、借り入れを最大の資金源としている(※5)。また、融資保証も担保問題の対応策として多くの国で利用され、拡大をめどに定量的目標を設定している国もある。

(※1)EU10ヵ国:ベルギー、デンマーク、スペイン、フィンランド、イタリア、ルクセンブルク、オランダ、ポルトガル、イギリス、スウェーデン
(※2)企業設立率:既存企業数(商業登記)に対する、企業以外の主体による新規企業設立数の比率。M&A、分離、再編などを除く。起業性向:会社員よりも自営業を志向する人口比率。
(※3)起業性向:会社員よりも自営業を志向する人口比率。
(※4)米・欧ともに低下トレンドにあるが、米国はまだ欧州を16%ポイント上回っている。
(※5)国によって融資条件はかなり違っており、イギリス、ドイツ、オーストリアなどが上位にランクされる。

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