なぜハイテクに固執するのか

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2005年05月02日

  • 原田 泰

経済財政諮問会議は、4月19日に「日本21世紀ビジョン」を発表した。新聞でも大きく扱われたが、あまり話題になっていない部分がある。織物、家具、木工など伝統的手工業も評価される、と書いてあることだ。

日本産業を支えるものはハイテクだというのが多くの人々の共通認識だろうが、パソコンの価格はいくらでも安くなる。デジタル・テレビもデジタル・カメラも携帯電話も、いくらでも価格が下がってしまう。しかし、木製の玄関ドアは100万円を下らず、その価格が安くなる兆しもない。ヨーロッパでは、ハイテク製品など作らない国も多いが、為替レートで計った1人当たりGDPはともかく、生活の実体を見れば、日本よりはるかに豊かな国が多い。売っているのは、豊かな生活のイメージとそれを支える製品だ。住宅、家具、キッチンセット、建具、衣料品、靴、小物だ。1万円のデジタル・カメラを作らず、10万円の靴、100万円のドア、500万円のキッチンを作っても豊かな生活は可能だろう。

しかし、単に伝統に回帰しただけでは、多くの人々の受け入れるものとはならない。日本の伝統が、心地よさと美しさと豊かさを与えるものとなって初めて、世界の人々に受け入れられる。そのためには、日本人の生活が、心地よく、美しく、豊かであると、世界の人々に認知されなければならない。

だが、現在そうなっているとは言えない。一番の理由は、住環境の貧しさだろう。では、なぜ住環境が貧しいのだろうか。狭い国土に多くの人が住んでいるから仕方がないというのが予想される答えだが、土地は余っている。田圃は休耕している。工場用地は売れ残っている。

余っている土地を使わないことには、土地に軽課、人と資本に重課している税制の問題が関与しているのではないだろうか。土地に軽課されていれば人々は土地を使わないでいることができる。人と資本に重課すれば、豊かな生活をしようという元気がでない。アメリカは、土地に重課、人と資本に軽課している国である。アメリカ製品の仕上がりに不満を抱く人々も、アメリカの住環境は豊かなものと認めざるを得ないだろう。

私たちの生活を心地よく、美しく、豊かにすることが伝統を復活し、産業の再生をもたらすことになる。ハイテクで産業を活性化するには、なんら制度改革を必要としない。しかし、人々の生活を心地よくすることによって産業を活性化するには、土地税制を初めとした様々な改革が必要だ。ハイテクへの固執は、人々の生活向上と制度改革の重要性の認識を弱めてしまうのでないだろうか。

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