楽天に刺激され起業家を目指す学生が増加

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2005年04月20日

  • 鈴江 栄二

フロントランナー型の日本社会の実現に向けて、起業家予備軍だけでなく大企業の社員を含め、創造性や問題設定能力に優れ、新分野や先端技術開発へのチャレンジ精神の旺盛な人材養成が緊急の課題となっている。こうした中、昨年来、筆者の現場感覚からすると、起業家精神に富んだ大学生が着実に増加してきており、日本経済にとって明るい材料であると実感できるようになった。これは近年の政府による大学発ベンチャー支援策のほか、昨年から楽天やライブドアなどインターネット関連の新興ベンチャー企業のメディア露出が急増していることが背景にあると考えられる。

筆者は仕事柄、大学発等ベンチャー企業のIPO支援にかかわることが多い。その一環で、2005年度から早稲田大学において、大和証券グループ本社により開設された寄付講座「ベンチャー起業家養成基礎講座」の担当教員として授業を開始した。大学院レベルでは類似の講座は全国的に多数あるが、今回のように1-4年生が対象となるのは非常に珍しい。受講希望者数は事前予想を大きく上回り、定員に対し競争倍率は8倍に達した。授業態度は時間延長となっても全員真剣である。授業後には大勢の質問者に取り囲まれ、強い熱気を感じた。

起業家講座を学ぶのは早いほど良いのではないかと思う。なぜ起業するのか自分の生き方を十分考えることから始めなければならない。次に社会から強く必要とされる事業はなにか、その構想を鍛錬する必要もある。会社は誰のものか、何のために存在するかなど、自分が起業する上で、ステークホルダーとの係わりをよく理解し、いかに共存共栄するかを明確にすることも重要となる。加えて、成功への意欲・熱意を高揚するための事例研究のほか、財務・会計・法務、マーケティングや知的財産戦略、人材マネジメンなどのスキルを幅広く学ぶことも欠かせない。社会のあらゆる分野から、こうした課程で育った人材が注目されるようになるだろう。

一方で近年、初等・中等教育の問題として、理科系科目を中心とする学力の低下、家庭での勉強時間の急減、将来の自分の夢・仕事・社会との係わりへの関心の希薄化、など中学・高校生の危機的な意識調査結果が続いている。先述した起業家希望者の増加傾向と矛盾するような負の側面があることも事実である。フリーターやニートが増加する実態は、まだまだ起業家社会が到来したとは言いがたい。今後、全国の大学のみならず、高校や中学へと起業家講座が急速に普及していくことに期待したい。

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