ウォルマートが指標でなくなる日
2005年03月29日
これまで、米国の消費動向はウォルマート1社を見ていれば、ある程度掴むことが出来た。しかし、ちょっとした異変が起きている。高級品市場の活況である。高級と言ってもアパレルなどのブランド品ではない。日用品である。
昨年ニューヨークにオープンしたタイムワーナー・センターには、高級ブランドが集積した一画があるが、その核店舗にはホールフーズ・マーケットと、ウィリアムズ・ソノマが入った。ホールフーズは自然食品を中心とした高級スーパー。タイムワーナー・センターにはマンハッタン最大級のスーパーを開設し、高級惣菜から寿司のイートイン・コーナーまで豊富に取り揃えている。キッチン用品や食器を優雅なディスプレイで扱うウィリアムズ・ソノマは、同社のコンセプト通りの店舗だが、このような高級モールの核としてセンター正面の大きなスペースを任されるようになった点で、時代の変化を感じさせる。
ホーム・デポがマンハッタンに開店した新店舗は、通常思い浮かべる郊外型店とは全く違う。郊外では、車が2~3台入るような車庫の扉やら、材木やら、ユニットバスやらが、「倉庫」のような巨大な建物の中に「部材」といった顔をして並べられている。しかし、最新の都市型店では、デザインの凝った照明、タイル、ドアノブなどが「ショールーム」のような感覚で「ディスプレイ」されているのである。同社のイメージを一新させる店となっている。また、ディスカウントストアの値引き攻勢にさらされ、二度に渡って会社更生法を申請したFAOシュワルツのニューヨーク店が昨秋再開。等身大の象やキリンのぬいぐるみまで並べるほどの、超高級玩具店に生まれ変わった。
高級品自体は今までも好調であったが、あくまでアパレル・宝飾に代表されるブランド品の話。食品・日用品は低価格品が好調で、「消費の二極化」と称されてきた。ところが、高成長を続けてきたディスカウントストアで扱う食品・日用品に対し、高級品という全く別の方向からライバルがやってきたのである。もちろん、マンハッタンという米国の中でも特殊な世界に始まったトレンドに過ぎないかもしれない。しかし、ディスカウントストアも郊外立地が飽和に近付きつつあり、玩具、食品といった新たなカテゴリーへの進出も一巡。都心以外に大きな成長機会がなくなってきたのも確かである。ウォルマートが米国個人消費の指標でなくなる日は、そう遠くないかもしれない。
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