「金融コングロマリット」時代とは何か

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2005年03月14日

  • 瀬越 雄二

昨年12月に金融庁が「金融改革プログラム」を発表して以来、金融機関の異業種連合に係るニュースが新聞紙上を賑わせている。金融コングロマリットに関する話題は、金融実務に携わる者にとっても、如何にも唐突であった。金融のコングロマリット化とは何なのか。また、なぜ、今、金融コングロマリットなのか。少し頭の中を整理してみよう。

金融コングロマリット化の動きは、国際的な視点から鳥瞰すると、その本質が見える。この潮流は、二つの要素で構成される。国内金融市場のクロスボーダー化と縦割り業界のクロスボーダー化である。いずれも、国際的な競争に打ち勝つための国の施策である。金融コングロマリット化の動きは、両者が有機的に関係して現われた現象といえる。まず、1980年代以降の米国で見られるグラス・スティーガル法形骸化の動きがある。この動きは、グラム・リーチ・ブライリー法(1999年)の成立により法制度が完成した。第二は、EU市場統合の動きである。第二次銀行指令(1989年)によるユニバーサル・バンキング体制の整備、マーストリヒト条約(1992年)の締結による市場統合およびユーロの導入(1999年)による欧州巨大金融市場の創設が北米に大きな影響を与えた。EUの金融コングロマリット法制は、英国の法令の影響を強く受け、金融コングロマリット指令(2002年)および金融商品市場指令(2004年)の制定により整った。

米国およびEUにおいて、なぜ、金融コングロマリット体制が構築されたのか。これは、国際金融市場における覇権争いに他ならない。米国はEU金融機関のユニバーサル・バンキングに脅威を感じ、逆に、EUは欧州単一市場における米国金融機関の存在感に脅威を感じた。近年の国際金融市場における競争政策を前提として考えると、金融のコングロマリット化は必然的帰結と言えよう。また、金融機関の巨大化は既存の監督体制の不十分さを露呈させた。最近の事例では、エンロンまたはワールドコム事件に関連して、巨大化した金融機関の監督のあり方が問われた。我が国では、今後、投資サービス法および金融コングロマリット法の整備の検討が進み、金融機関の巨大化が進行することになる。現在検討されている法令は投資サービス法であるが、海外市場では既に縦割り業法のない金融サービス法の時代に入っている。すなわち、証券市場は金融市場となり、投資家は消費者となり、証券取引所は金融取引所になる時代である。証券会社も金融サービス会社化に向う。今後発生する金融市場または金融機関の再編は、法令の名称が何であろうと、統合された金融市場を志向している。

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