減速シナリオを見直す時

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2005年03月07日

  • 小林 卓典
内閣府の景気基準日付によれば、ITバブル崩壊による前回の景気後退局面の底は2002年1月であり、その後始まった今回の拡大局面は4年目に突入したことになる。通常、これほどの期間にわたり景気回復が続けば、例えば登山になぞらえ、「拡大局面の何合目に達したか」というような景気の成熟度合いを測る判定が重要になる。しかし、今回の場合、その判定は過去の景気循環と異なり難しい。企業業績は好調だが、経済成長率はすでに昨年の4月~6月期からゼロ近傍にあり、ちぐはぐな印象を受ける。

やや極端だが、生産活動が明確にピークアウトしたのは製品価格の下落により在庫調整に至った電気機械セクターのみであり、それを除けば多くのセクターで在庫水準は低く、全般に生産能力は過剰感が薄いか、または素材産業のように不足している。さらに労働コストの変動費化が続いているため、雇用の回復ペースは至って緩やかである。つまり景気の成熟度合いとして、少なくとも国内においては、いまだ回復の初期段階にあるのではないかと見間違うほどの状態にとどまっている。

昨年後半から鉱工業生産は停滞し、景気がすでにピークアウトしたかのような印象を強めさせている。一方、米国経済は雇用回復が軌道に乗り、また昨年末のボーナス償却制度の終了によりIT関連を中心に落ち込むと懸念された設備投資への影響もどうやら杞憂に終わった。つまり輸出環境という観点から見れば、景気のダウン・サイド・リスクは後退したと判断するのが妥当なはず。今後は、景気減速よりもむしろ再加速を裏付けるような動きが生産・輸出統計に徐々に表れ、踊り場を脱するシナリオの蓋然性が高まってくると予想する。問題はそれを示唆する兆候がすでにどこかで認められるかどうかである。

踊り場を経て再加速へ
2月16日に公表された昨年10月~12月期の実質GDPの成長率は、事前の市場コンセンサスを下回り、前期比年率▲0.5%にとどまった。これで昨年4月~6月期以来、3四半期連続でのマイナス成長ということになる。

この数字を額面通り受け取ると、景気は失速したままとの印象しか残らない。しかし、輸出と設備投資の増加率はむしろ昨年7月~9月期よりも高まっている。さらに注目されるのは、総合的な物価水準を表すGDPデフレーターの前年比下落率が0.3%へ急速に縮小していた点。景気はわずかながら上向く兆しを見せ、デフレ脱却へ期待をつながせるというのがその内容であった。やはり、このまま景気が失速するというより、踊り場を経て再加速するという見方の方が妥当だと思う。

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