ブログが改めて問い掛けるインターネット時代の情報発信のあり方
2005年03月04日
従来のウェブ日記と異なるのは、技術に詳しくなくとも誰でも容易に開設でき、情報更新に面倒な手間が要らず、他のブログや読者との意見交換や情報共有が促進されやすい点と言える。簡便なコンテンツ管理性能と洗練された情報連係機能が、インターネット空間上における情報発信の強力なツールとなっている。
このような特徴を追い風に、米国では既に800万人がブログを立ち上げているそうだ。ある非営利調査機関の発表(※2)によれば、米国における1億2千万人もの成年インターネット・ユーザのうち、14人に1人がブログの書き手(ブロガー)に、4人に1人がその読者となっている。このことからも、もはやブログは単なる個人的意見の発信手段という範疇を超え、大きな社会的影響力を持ち始めていることがうかがわれる。
ブログが持つ潜在力に注目する企業も多く、社員にブログ環境を提供することや、経営理念の理解促進と知名度向上のため上級役員自らがブロガーとなり社外に発信する事例も見られる。また、新しい情報技術の取り込みに積極的なウォール街でも、コンテンツ管理を重要視することから、イントラネットにブログ機能を採用し、社内情報共有のテコ入れを図る動きもある。
その反面、社員が社内事情を不用意に漏らしたり、企業方針に対する個人的見解を書いた理由で処分される事例も少なくない。また、企業マーケティングに応用されるようになり、個人の趣味的活動とビジネスの境界が曖昧になってきている。広告収入や商品の紹介手数料を得ることも可能なため、個人意見の自由な発信というよりは、広告記事的色合いが濃いサイトも多いようだ。
このような状況下、ハーバード大学で今年1月に『ブログ、ジャーナリズム、信頼性』と題する会議(※3)が開催された。ジャーナリストとブロガーの活動内容を対比しながら、情報発信のあり方(「倫理性」)がもたらす「信頼性」を考えようというのが会議の趣旨である。読者の信頼を得るために、ジャーナリストに第一義に求められるものが情報の正確性や公平性とすれば、個人的意見を表明するブログに求められるものは発信側の主義主張や立場の明示であることを示唆している。さらに、事実の伝達や意見の交換を介して読者の信頼を得るためには、情報発信に至るプロセスの「透明性」が重要とも言及している。
例を挙げるならば、ある個人ブログが特定の商品を絶賛した場合、その絶賛がどのような価値判断基準によるものか明らかにしておかないと、読者の信頼を得るどころか反動すら生みかねないということである。どのような趣味、嗜好、環境下の人が該当商品を前向き評価するに至ったのか。また、ブログの記載内容は純粋な個人的見解なのか、もしくは企業から対価を得た上での情報発信なのか。読者から見て、書き手が同じ価値観に立っていると分かれば、その内容が独断的な批評であっても同調することができるだろう。対価を得た上での商品紹介だと予め気が付けば、参考にする/しないは読者の判断に委ねられる。
それに対し、立場を明らかにせず読み手側を誤認させる情報発信は、発信された内容とブログの存在自体の信頼性低下につながりかねない。これまでは、ジャーナリスト的な役割を担っている個人サイトの影響力はさほど大きく無かったため、このような問題が直視されることは少なかった。しかし、ブログの爆発的普及と強力な情報伝播力ゆえ、ネット時代となり約10年経った今、改めて問題提起されるに至ったのである。
ハーバード大学での会議開催に関しては、仮想空間で草の根的に発生したブログ・コミュニティーのあり方について現実空間の象徴的学府が介入する形となったため、コミュニティーからの反発も見られたようだ。しかし、意思表現と事実報道、個人と企業の境界線が曖昧になっている事実を踏まえ、インターネットにおける情報発信のあり方に一石を投じる試みとなったのは確かであろう。販売促進などにブログ活用を検討している企業は、活用に際しての倫理性、透明性に充分注意を払う必要がある。
(※1)" Word of the Year 2004", 大手辞書会社Merriam-Webster Inc.
http://www.m-w.com/info/04words.htm
(※2) "The state of blogging", Pew Internet & American Life Project, 2005年1月
http://www.pewinternet.org/pdfs/PIP_blogging_data.pdf
(※3) "Blogging, Journalism & Credibility", Harvard Law School, American Library Association's Office, Harvard's Kennedy School of Government
会議の公式サイトはブログによって運営されている。
http://cyber.law.harvard.edu/webcred/
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