列車の力

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2005年03月01日

  • 原田 泰
 ときたまサッカー観戦をすることがあるのだが、その度に感心させられるのは列車の力だ。日本代表戦であれば、5万人の観客が集まる。列車であれば、1両に400人を乗せることも可能である。10両編成であれば、4000人の観客を一遍に運ぶことができる。3分に1本走らせれば、30分で4万人の観客を処理できる。一つの駅があるだけであっという間に観客が処理できる。いくつもの駅が利用可能な国立競技場であれば、その処理の速さは驚異的になる。

バスであれば、1台で50人の乗客しか運べない。4万人の観客を処理するために800台のバスが走れば道は渋滞してしまう。車であれば、気の遠くなるような時間がかかる。アメリカで、フットボールの観客は車で集まる。行きも帰りも大変な時間がかかる。

列車の力に、特に感銘を受けたのは北朝鮮戦だった。幸運にもチケットが入ったので観戦しようとの誘いを友人から受けたのだが、あいにく名古屋での講演があった。しかし、時間をチェックするとキックオフに間に合うではないか。新幹線の速さと列車の輸送力になおさら感銘を受けたわけだ。

考えてみれば、我々は日常的に、列車の莫大な輸送力とスピードの恩恵を受けている。都市と都市、都心と郊外を結ぶ人の流れが生み出しているビジネスは、列車がなければ成立しない。3分ごとに250キロの列車が走り、一度に4000人を運ぶことも可能な力の偉大さを、対北朝鮮戦を名古屋から駆けつけて観戦するという非日常的体験で思い知らされた。しかし、より驚くべきことは、この素晴しい力を、日本が日常的に保持しているという事実だ。こんな国はどこにもない。

だが、観客が、祝勝会ないしは反省会で回遊することによって、輸送処理能力の負担を引き下げるという手もあるはずだ。これは地域の活性化にもなる。ワールドカップで建設されたサッカー場の稼働率が低いことも問題だが、回遊施設のないことも楽しさを減退させているのではないか。日本で、列車の力には感銘を受けるが、楽しさを演出する力には不足しているのではないか。

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