雇用回復の期待を担うホームショアリング

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2005年01月25日

  • 市毛 康友
昨年の大統領選挙で注目を集めたオフショアリング(国内業務の海外アウトソーシング)の是非について、支持派のブッシュ大統領に軍配が上がった結果、米国外への雇用流出は急加速する気運が高まっている。米国企業においてトレンドとも言えるオフショアリングは、コア業務へのリソース集中傾向に加えてブロードバンドの普及が後押しし、今やIT関連業務のみならず人事や経理を含むオペレーション業務にまで浸透している。しかし、オフショア活用によって労働コストの削減効果を上げる一方で、十分なサービス品質を維持できずに委託業務を海外から撤退・縮小させる企業も少なくない。業務プロセスの多くはマニュアル化し、高度な教育・研修を受けた要員により運営されるが、異国文化や慣習、価値観まで理解を求める事は難しく、自国のビジネス常識が非常識に転じてしまう事も多い。

このような背景の中、国内の在宅ワーカーの活用が見直され、「ホームショアリング」あるいは「ホームソーシング」という言葉が定着し始めている。専門的な業務知識やノウハウを有する在宅ベースのインディペンデント・コントラクター(雇用契約を交わさずに独立して活動する個人事業者)に業務委託する形態は代表的な例と言えよう。ここでは正社員の在宅勤務と異なり、業務単位または歩合制による委託契約のため、必要に応じて労働力を調整できる。その適用範囲はソフトウェア開発やWebデザインから事務職まで様々であるが、特にコールセンター業務において多大な成果を挙げている。点在する在宅ワーカーを繋いだ擬似的なコールセンターでは、国内の業務事情に精通した要員によって良質なサービス供給を実現するだけでなく、相次ぐコールセンターの閉鎖で大量に解雇された労働者に新たな就業機会を創出している。

ホームショアリングは、低コスト・高品質サービスを重視する企業と、自由な就業時間・場所を好む在宅ワーカーの両者の要望を満たすワークスタイルとして新たなトレンドを形成しつつある。今後はオフショアリングとの棲み分けが進み、効果的なアウトソーシング戦略を模索する企業に対して新たな選択肢を提供するだけでなく、国内労働力を活性化して雇用の空洞化現象を阻止する施策としても期待される。

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