上場企業の円高耐久力はどれほどか?

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2005年01月21日

  • 渡辺 浩志
円高が今景気回復局面(2002年1月~)では最高の水準にまで進行し、一時101円/㌦台をつける展開となっている。2005年度はマクロの景気減速予想を受けて、企業の経常増益率は大幅に減速する見通しであるため、円高の進行が追加的に企業収益に悪影響をもたらすことが懸念される。そこで、上場企業が円高に対してどれほどの耐久力があるかを検討した。ここで耐久力とは、05年度の経常利益が04年度に比べてギリギリで増益を維持できる為替水準、すなわち為替レートの「“減益”分岐点」を意味する。対象は東証一部上場企業のうちの1364社(単体ベース)で、全産業分析を試みた。

まず、円高になるとマクロ経済においては輸出や設備投資に影響が出るが、これらの最終需要の落ち込みを受けて、上場企業では主に加工組立業種(電機、自動車、機械など)に影響が現れる。次いで、これらの業種に材料を供給している関連素材業種(鉄鋼、化学、窯業土石)が産業連関効果を通じて影響を受ける。更に、加工組立や素材などの製造業の落ち込みが、これに関連する物流(卸・小売、陸運)等の非製造業へと波及する。一方で国内向けの非製造業に対する影響は軽微であることや、原材料を輸入に頼る業種(石油石炭製品、紙パルプなど)は円高がむしろ増益要因となる。こうして産業ごとに円高に対する収益の弾力性が異なってくる。この弾力性と、05年度の収益予想を組み合わせて、“減益”分岐点為替レートを算出する。

05年1-3月期から円高になるケースを想定すると、結果は図表の通りとなる。製造業全体での“減益”分岐点レートは99.6円/ドル、円高の影響を受けやすい加工組立業種で101.3円/ドルと、足許の円高水準でも企業収益にとってはすでにクリティカルなポイントに差しか掛かっていることがわかる。

ただし、(1)足許では実質実効レートは安定しており価格競争力は低下していないこと、(2)輸出の円建て比率が加工組立業種では3~5割あり、円建て手取り額の変動が緩和されること、(3)日本の輸出品に非価格競争力があり、これまで過度な円高局面では為替変動を輸出価格に転嫁してきたことなど、円高が企業収益に与える影響を短期的に遮断する安全装置も存在する。

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