国民国家の限界

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2005年01月07日

  • 山中 真樹
昨年の11月29日、ラオスで行われていた首脳会議で東南アジア諸国連合(ASEAN)十カ国と日中韓三カ国は本年12月にマレーシアのクアラルンプールで「東アジアサミット」を開催することを合意した。未だ流動的な面も残されているようであるが、将来における「東アジア共同体」創設の実現に向けた第一歩となるものであろう。一方、国内では同じく11月26日、政府・与党が国と地方の税財政改革(いわゆる「三位一体改革」)の「全体像」を決定した。この「全体像」に対する各界の評価は様々であるが、国に集中し過ぎた権限を地方に分権化すべしとの大きな流れは国民の共通認識となっているといってよかろう。

ところで、ほぼ時を同じくして出されたこの二つの施策、一見したところではその方向性が正反対であるようにみえる。「東アジア共同体」の創設は、国という枠組をより大きな地域共同体の枠組みに組み込んでいく方向である。一方、地方分権は国という枠組みをより小さな地域共同体の枠組みに分割していくという試みである。片や国をより大きなものへと帰属させ、片や国をより小さなものへと分割していくという意味において両者はベクトルが180度異なるとも言えよう。

しかし、このように一見正反対にみえるふたつの動きであるが、大局的には共通の問題意識から生じたものであるように思われる。それは、「国民国家の限界」という問題意識である。つまり、フランス革命以降全世界に広まった国民国家という国のありかたが、一方では経済に代表されるようなグローバル化が進展するなかにおいてはサイズが小さすぎ、また一方では住民の価値観や政治に求めるニーズが多様化するなかにおいてはサイズが大きすぎるということである。

その意味において、われわれは現在、「国民国家の限界」という歴史的な局面にさしかかっているといえる。こうした歴史的課題にいかに対処すべきか、国家百年の計として各界における議論の深まりを期待したい。

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