敵対的M&Aリスクにおののく韓国企業

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2004年12月13日

  • 五百旗頭 治郎
韓国でも外国企業による敵対的M&Aリスクが話題となっている。日本では、06年度の商法改正により、外国企業が株式交換によって日本企業を買収することが解禁されることを受けて、外国企業による敵対的M&Aへの対抗策が取り沙汰されているが、韓国企業にとっては既により切羽詰った経営問題である。

昨年、石油精製韓国最大手のSK(株)が欧州系ヘッジファンドから敵対的M&Aをかけられたのに次いで、今年は中堅海運会社である大韓海運がノルウェー系のGolar LNGによる株式買占めを受けた。また、最近では、サムスン電子の株式を3.9%保有するサムスン物産に対して外国系ファンドが敵対的M&Aを仕掛けるのでは、という話も出た。いずれのケースも、外国企業・外国ファンドが韓国企業の経営権を獲得するまでには至っていないものの、韓国企業は経営権防御のために莫大な労力をつぎ込んでいる。

韓国では、日本と同様、外国企業・外国資本が敵対的M&Aを進める場合、それを防ぐ制度策は限られている。現状では、友好的な取引先企業などに所謂「ホワイト・ナイト(白馬の騎士)」になってもらうしかない。つまり、友好的な企業に当該企業の株式を購入してもらい、株主総会で企業側の意見に沿った賛成票を投じてもらうわけである。昨年末、日本の伊藤忠商事と太陽石油は、SK(株)からの要請に応じて石油関連取引のSK(株)の株式をそれぞれ0.5%、0.25%ずつ買い付けた。今年3月の株主総会では辛うじてヘッジファンドから「経営改善要求」を退けたSK(株)の現経営陣だが、今年も、国内外の取引先企業に対して株式購入を要請しているようである。

韓国上場株の外国人保有率(時価総額ベース)は40.1%と、日本(17.7%)、米国(10.3%)、台湾(23.1%)に比べかなり高い(2003年末時点)。数年前まで韓国企業自身が、外国人投資家の株式保有比率が高まることを「自社に対するグローバル評価の高まり」として自慢していたのが、皮肉な状況になったものである。韓国で外国企業による敵対的M&Aが増加している背景としては、(1)外国人に対して株式市場への投資がほぼ完全に開放されており、(2)敵対的M&Aを防御する手段が限定的であるうえ、(3)韓国市場の株価バリュエーションが相対的に低く、企業価値に比べて安価で韓国企業買収が可能であること、などが挙げられよう。これらの背景から考えると、韓国企業が根本的に敵対的M&Aを防御するためには、企業価値を高めて株価上昇を促す努力を企業自身がするしかない。筆者は、もしかすると、敵対的M&Aリスクという強烈な「外圧」が、「韓国ディスカウント」と呼ばれる韓国株式に対する低評価(低バリュエーション)を修正するきっかけになるかもと、むしろ期待している。

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