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注意が必要なフロー面の退職給付費用問題

~年金資産運用や企業業績との関係~

2004年11月05日

柏崎 重人

市場における企業の退職給付(退職金・企業年金)に係る問題は、ここしばらく影をひそめているようだ。少なからぬ企業で信用リスク懸念を惹起する程までに悪化していた1年半前の状況とは隔世の感がある。(1)2003年4月末をボトムに回復した株式市場等を背景に2003年度の年金資産運用が過去最高水準のパフォーマンスをあげた、(2)厚生年金基金の代行返上によって大幅な年金債務の削減に成功した企業が相次いだ、などを要因として、主としてバランスシートの陰に潜む(退職給付)簿外債務等の問題が大きく後退したためである。退職給付債務問題は、最悪期を脱して一段落したことは事実だろう。

しかし、フローの退職給付費用の問題までを考えると、退職給付に係る財務問題にはいまだリスクが潜んでいると言わざるを得ない。すなわち、退職給付費用が企業収益の重石になっている構図は、全体として大きく変わっていないのである。例えば、過去最高の利益を計上した2003年度の日経500採用銘柄ベースで見て、退職給付に係る費用総額は税前利益総額の32.5%の水準である。また、税前利益を超える退職給付費用を計上した企業は50社、税前利益の半分(50%超)を計上したのは110社と全体の約4分の1に達している(税前損失計上企業は除く)。退職給付費用は株価など市場動向に応じた数理計算上差異償却額の変動から毎年大きく変化するだけに、利益水準に対して退職給付費用の大きな企業では、今後も状況如何で大きな収益変動を余儀なくされてしまう。

格好の例として、今年度の利益水準との関係を指摘することができる。当社アナリストの企業業績見通(2004 年度第2 次予想)では、2004年度(主要300社)の営業利益、経常利益がそれぞれ、15.7%増益、22.2%増益となる見通しが示されている。「2004 年度後半から2005 年度にかけて世界的な景気減速が見込まれる中、増益率は鈍化するものの、高い利益水準での増益基調を維持する」ということで、企業収益等ファンダメンタルズ面は堅調との見方が支配的だ。

ただ、2003年度に好調だった年金資産運用実績の影響が2004年度決算から反映される点には注意が必要である。当方の試算(日経300採用銘柄のうち金融を除く276社ベース)では他のファクターが2003年度と同様な場合でも(つまり本業の業績向上がなくても)、退職給付費用の減少によって今年度の営業利益総額は4.1%増益を確保できる。特に、この影響が営業増益の7.85%以上(DIR予想の15.7%の半分)に寄与する企業は68社と全体の4分の1程度に達している。

以上のように退職給付要因によって増益基調を維持する企業が存在する事実は、「堅調なファンダメンタルズ」の中で市場が企業収益の先行きに自信をもてない裏づけの一つとなっているのかもしれない。おりしも、今年度第2四半期の年金資産運用は、6四半期ぶりにマイナスパフォーマンスを余儀なくされている。年金資産運用の悪化は来年度以降の退職給付費用負担を増大させることとなる。最悪の場合、それが株価の下落につながり、更なる年金資産運用の悪化や企業収益低下をもたらすという逆スパイラルの再現も頭をよぎる。退職給付の問題は企業業績や年金資産運用などフロー面との関係で、しばらく目を離せない状況が続くだろう。

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