取引市場における事業継続計画のあり方
2004年10月18日
フロアで「場立ち」取引を行うNYSEが名指しで標的になったことで、電子市場の重要性が再度注目を浴びるようになっている。NYSEはSEC(証券取引委員会)へ電子取引が可能な銘柄数の増加申請を行うとともに、取引所への攻撃を想定して、市内に代替フロアを保有していることを公表した。
一方ナスダックでは、NYSEが機能不全に陥った際、NYSE上場銘柄の取引を引き継ぐ機能を有し、同市場自身はマーケット・メーカーが物理的に全米各地に分散して取引するため、テロ攻撃に対して堅牢な市場であることを強調する。確かに、ナスダックのデータセンターやアクセス・ノード、さらに取引ネットワークに注目すると、これら施設が全米各地に拡散している上、市場参加者には必ず2箇所以上のノード接続を要求する等、事業継続計画(BCP:Business Continuity Planning)の観点から対応が進んでいることがうかがえる。
同時多発テロ事件から3年が経過した現在、金融業界全体のBCPに対する意識改革が進み、以前より格段に対応能力が備わったと言える。ただし飛躍的に改善したのは主に大手金融機関で、中小においては予算の都合上、設備導入の制約や業界全体のテストに十分参加できない等、対策の進捗状況に格差が生じたことも事実である。仮にテロリストが不意に標的を変更し、この結果、中小金融機関の多くが壊滅的な被害を受けた場合、大手のみならず金融業界全体にその影響が波及することが予想される。同様に取引市場についても、ナスダックにNYSE銘柄を引き受ける能力があるとしても、様々な障害が発生することは避けられないであろう。取引市場におけるテロ対策を含めたBCPの取り組みに関しては、金融機関各社や市場単位で対応して準備状況を競うのではなく、金融業界全体のレベル・アップが求められる。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
関連のレポート・コラム
最新のレポート・コラム
-
2022年08月09日
企業に求められる人的資本と企業戦略の紐づけ、および情報開示
有価証券報告書における情報開示は実質義務化?
-
2022年08月08日
非農業部門雇用者数は前月差+52.8万人
2022年7月米雇用統計:雇用環境は堅調、労働需給はタイトなまま
-
2022年08月05日
2022年6月消費統計
感染状況の落ち着きから、緩やかな回復基調を維持
-
2022年08月05日
内外経済とマーケットの注目点(2022/8/5)
米国市場では8/10に発表される7月の消費者物価が注目される
-
2022年08月09日
投資家は非財務情報をどのように活用しているのか
よく読まれているコラム
-
2022年07月21日
2022年度の最低賃金引き上げはどうなるか
-
2015年03月02日
宝くじは「連番」と「バラ」どっちがお得?
考えれば考えるほど買いたくなる不思議
-
2022年01月12日
2022年米国中間選挙でバイデン民主党は勝利できるか?
-
2021年12月01日
もし仮に日本で金利が上がり始めたら、国債の利払い費はどうなる?
-
2006年12月14日
『さおだけ屋は、なぜ潰れないのか』で解決するものは?