団塊世代のバランスシート

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2004年09月08日

  • 調査本部 常務執行役員 リサーチ担当 鈴木 準
まもなく、団塊世代が退職期を迎える。現役期の大半を日本的雇用プロファイルにそって経過してきた団塊世代は、少なくない退職金や退職年金を受け取るだろう。公的年金の先行きに対する不安の声しきりだが、それ以降の世代と比べて団塊世代が受ける痛手が小さいことも明らかである。団塊世代の退職後の消費や、資産運用の動向が注目されるわけである。

ただ、団塊世代については、保有負債の大きさを強調する向きもある。団塊世代に相当する47~51年生層の50歳代前半期における貯蓄残高(実質、以下同じ)は、それ以前の世代の同年齢期を超えるが、同時に負債残高もそれ以前の世代を上回る。その結果、両者を相殺した純貯蓄額は、差は大きくないが37~41年生層や45~46年生層の50歳代前半期を下回る。負債が大きい理由として、バブル期に住宅を取得したことや、90年代後半以降の雇用・賃金調整の影響が指摘されているようだ。

しかし、旧貯蓄動向調査によると、47~51年生層の30歳代後半期(80年代中頃)における持家率は既に60%であり、それ以前の世代の30歳代後半期における50%程度と比べて明らかに高い。また、40歳代前半期(90年代初頭頃)までのその上昇幅はわずかであり、40歳代前半期時点のそれは前後の世代と比べて低い。多くの団塊世代は価格が本格的な高騰をみせる以前に住宅を取得済みで、バブル期での取得者は少数だったのではないか。

バブルの影響をもろに受けたのは、次の52~56年生層だろう。彼ら団塊次世代の貯蓄残高は比較的高いが、負債がそれ以前の世代の比ではない。52~56年生層の40歳代後半期における純貯蓄残高は、戦前・戦中生れ世代の同年齢期と同水準にとどまっている。30歳代前半期(80年代中頃)に38%だった団塊次世代の持家率は、40歳代前半期(90年代中頃)には68%まで高まった。

そして、そもそも、負債の大小に着目すること自体に注意が必要である。少し昔には、わが国の住宅事情は貧弱であることが指摘されていたように思うが、居住サービスの質(面積や面積あたりの価値)の向上に伴って、所得をどのように各種支払に配分するかは家計の選択の結果である。負債の大きさをことさら問題にして団塊世代のバランスシートを評価するのであれば、その次の世代はそれどころではないし、リストラも団塊次世代の方が影響を受ける期間が長いだろう。

重要なことは、所得・資産環境が良好とみられる団塊世代が消費を大いに楽しみつつ、その貯蓄は効率的な資金の配分となるような状況の実現である。バランスシートが良好な当面最後の世代かもしれない団塊世代の消費活性化や資産選択に関し、好循環をどれだけ促すことができるかが、団塊世代以降の世代のバランスシートの将来を大きく左右する。

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鈴木 準
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