相続時精算課税制度の使い道
2004年09月07日
相続時精算課税制度とは、生前贈与により高齢者から若年層への財産移転を促進させ、さらには消費を促進させることを念頭に置き導入された制度で、2003年1月1日以後の贈与から適用されている。贈与時の非課税枠が大きく(原則2,500万円、住宅取得等資金の場合は1,000万円上乗せ)、この非課税枠内の贈与であれば、贈与時には課税されない点が特徴である。ただし、制度名の通り、非課税枠を利用して贈与した贈与財産であっても、相続時には相続財産に引き戻して課税される(既に納めた贈与税がある場合は相続税額から精算控除する)ため、必ずしも納税額の減少につながるものではない。贈与時の非課税枠が大きいことから、贈与を行う側にとって財産の移転時期の自由度が高まる(従来よりも早期の贈与が非課税で可能となる)ことが最大のメリットと言える。
公表された数字(下表参照)を過去と比較すると、新制度利用者は贈与者から受ける贈与額が大きいことがわかる。1人あたりの取得財産額は約1,485万円となっており、新制度が導入される前の数字(2001年が約358万円、2000年が約289万円)と比較すると、いかに多額の財産が移転しているかがわかる。
もっとも、新制度の利用による移転財産額の内訳をみると、若干異なる側面が見えてくる。移転財産の33.6%が、住宅取得等のための資金となっているのである。これに対し、移転財産に占める株式等(非上場株式を含む)の割合は、7.8%。住宅取得等資金の場合、贈与された金銭により住宅の取得等を行うことが条件とされているため、住宅需要にプラスとなったことは想像に難くない。一方、株式の場合は、額が小さい上、現物の株式で贈与されるため、単に株式の所有者が変わるだけで、それだけでは株式市場に新規資金が流入したとは考えにくい。
近年、株式市場活性化策として、株式等の相続・贈与に関して一定の非課税枠の創設が提言されることがある。こうした案は実現すれば株式市場の活性化に寄与するものと思われるが、税収の減少を伴うとともに、“金持ち優遇”との批判を免れない。
では、考え方を多少変えて、住宅取得等資金と同様、相続時精算課税制度に「上場株式取得等資金」の特別非課税枠を設けてはどうだろうか。上述したように、相続時精算課税制度では、贈与時の税負担を軽くしつつ、相続が発生した際には贈与財産を相続財産に引き戻して精算課税するものである。贈与時の税負担を軽くするだけで、税収が完全になくなるものではないので大幅な税収減にはつながらない。近年盛んに言われている「貯蓄から投資へ」の流れに合致する策と思われるが、乱暴すぎる議論であろうか?
表 相続時精算課税制度の申告状況

※相続時精算課税制度では、例えば、父母双方から贈与を受けた場合、父・母からの贈与それぞれについて相続時精算課税の適用を受けることができる。上表の「実人員」とは、1人の受贈者が父母双方から贈与を受けているような場合でも人員を「1人」とカウントした場合の数字である。一方、「延べ人員」では、複数の贈与者から贈与を受けた場合には、贈与者の数でカウントしている。
(出所)財務省「平成15年分 相続時精算課税制度に係る贈与税の申告実態調査」(2004年8月30日)
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
関連のレポート・コラム
最新のレポート・コラム
-
2022年08月10日
アメリカ経済グラフポケット(2022年8月号)
2022年8月8日発表分までの主要経済指標
-
2022年08月09日
企業に求められる人的資本と企業戦略の紐づけ、および情報開示
有価証券報告書における情報開示は実質義務化?
-
2022年08月08日
非農業部門雇用者数は前月差+52.8万人
2022年7月米雇用統計:雇用環境は堅調、労働需給はタイトなまま
-
2022年08月05日
2022年6月消費統計
感染状況の落ち着きから、緩やかな回復基調を維持
-
2022年08月10日
多様化時代の金融サービス業のあり方
よく読まれているコラム
-
2022年07月21日
2022年度の最低賃金引き上げはどうなるか
-
2015年03月02日
宝くじは「連番」と「バラ」どっちがお得?
考えれば考えるほど買いたくなる不思議
-
2022年01月12日
2022年米国中間選挙でバイデン民主党は勝利できるか?
-
2021年12月01日
もし仮に日本で金利が上がり始めたら、国債の利払い費はどうなる?
-
2006年12月14日
『さおだけ屋は、なぜ潰れないのか』で解決するものは?