大和の中国投資情報8月号 今月の視点「中国の労働力不足問題」

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2004年08月23日

  • 投資戦略部
中国が日本のみならず世界に与える影響力はますます大きくなりつつあります。香港、北京、台北など中華圏にリサーチ拠点を有する大和総研では、重要性が増した中国経済・株式を分析する月刊「大和の中国投資情報」を創刊しました。

今月号の視点

中国で安価な労働力を農村から無尽蔵に調達できるという先入観は、もはや改めたほうが良いかもしれない。この夏、中国経済を巡る問題として大きな話題となったことは、経済のソフトランディング、電力不足、そして労働力不足問題である。出稼ぎ労働者の不足によって企業が生産規模縮小へ追い込まれる事態が発生した地域は、広東省、上海といった沿海地域のみならず、内陸部の一部の大都市にも広がっているという。

中国に進出した外資系企業の活動を支えているのが出稼ぎ労働者の存在である。これが不足した背景として、経済の高成長による労働需要の急速な拡大がある。ならばこのところ減速の度合いを強めているといわれる中国経済が、いまだ加熱している証拠ではないかということになりかねないが、理由はそれだけではない。
昨年から食料価格の値上がりが著しい中国では、農産物の価格上昇によって農村所得が向上し、これが労働人口の都市部への流出ペースを抑えている。全国のほぼ全ての地域に最低賃金制度が導入されたことにより、広東省などに出稼ぎに行く魅力が相対的に低下している。また熟練労働者の恒常的な不足による労働需給のミスマッチが拡大していることなど、問題の背後には複数の要因が絡んでいる。

今回の労働力不足は、経済の減速により一時的に緩和されるだろう。また労働者の地域間移動の規制をさらに緩和する人口流動化策もある。しかし、労働力不足の根本的な解決策は、賃金の引き上げにあり、そこには出稼ぎ労働者に対する社会保障制度の適用などが含まれる。労働コストの上昇は、低賃金の労働力活用を前提としたビジネスモデルに変更を迫ることになるだろう。ただし、投資に偏ったアンバランスな経済成長を是正するためには、家計消費を拡大する賃金の引上げが、いずれ避けて通ることの出来ない問題となる。

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